白い奴

去年の今頃、先輩と二人で日本海にサーフィンに行った。
一応、フル装備で行ったが、水温が予想外に冷たく、『寒い』と言うより『痛い』だった。
俺と先輩はサーフィンを断念し、カニでも喰いに行こう!と、近くのカニ鍋を出してくれる民宿に泊まる事にした。

風呂で暖まった後、夜の海が見える部屋で酒を飲みながら喰うカニ鍋、最高だった。
二人ともほろ酔いになりかけの頃、先輩が『おいおい!こんな時間に波乗りしてる奴おるぞ!』と。

俺は『んな阿保な!』と言いながら海を見た。
すると、確かに、海にポツンと白いスエットスーツを着た奴がいる。
しかし時間はすでに夜の10時を回っている。
『あいつ、何してんすかね?』と俺は言った。
先輩はその『白い奴』をジーっと見つめたまま黙っていた。

俺は『あいつ寒くないんすかね?っつーか、暗くて波見えんっしょ?』と言った。
その時、先輩が、その『白い奴』を見ながら『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アアア!』と気持ち悪い声を出しはじめた。

俺は何のギャグだ?と思い、先輩を見た。
先輩は一点(白い奴)を見つめながら、『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アアア』と不気味な声を出し続けた。

俺は先輩に『いやいや、何の真似っすか?』と聞いても返事どころか、その奇声をずっと出し続ける。
俺は訳がわからず、とりあえず先輩の両肩を揺すり、『ちょっ!先輩!』と言うと、先輩は『ギヒィィィィィィ!』みないな甲高い声を出し、泡を吹きながらその場に仰向けに倒れた。

俺は急性アルコール中毒かと思い、慌てて誰かを呼ぼうとした、その時、『キイィー-ーン』と、凄い高い音と共に頭痛がした。頭の中で鉄琴を叩かれたような。

俺は頭を抱え込み、うずくまった。
その音が段々と高くなってくる。
そして頭の中にその高音と共に、凄く低い男の声で
『おーーーい・・・おーーーい・・・』
と聞こえてくる。

俺は頭を抱えながら何気に窓の外を見た。
するとさっきの白い奴が海の上(海面)に立ちながら気持ち悪い動きをしながら、こちらに歩いている。
まるで全身の骨が折れたような、操り人形のような、人間とは思えない動きで少しずつこちらに歩いていた。
俺は本能的に『ヤバイ!』と思い、とっさに卓上の食器やコップを壁に蹴りつけた。

『ガシャーン!!』

食器などが割れる音に気付いた民宿の従業員が駆け付けてくれ、それと同時に頭痛が消えた。
先輩は気を失っていた。

民宿の従業員はすぐに救急車を手配し、駆け付けた救急隊員に
『食中毒の恐れがある』
と言われ、先輩と一緒に、俺も救急車に担架で搬送された。

救急車の中で隊員に『何か生の物を食べたか?』とか色々聞かれ、ありのままの事を答え、海に変な白い奴がいた事も報告した。
すると、三人いた救急隊員は何か気まずそうな雰囲気を出し、しばらく沈黙が続いた。

そして一人が
『・・・今年も出たかぁ・・・』
と小さな声で呟いた。

俺は何だか恐くなって、それ以上は聞けなかった。

p.s.
今では先輩も元気です。

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?151

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