おてんぐ山

子供のころ、数日間田舎にあずけられることがあった。
群馬の山間部にある、比較的大きな家で、裏には『おてんぐ山』と呼ばれているじいちゃんの持山があった。
やることがないと、その山で落ちているセミをとったり、ウロウロと歩き回ったりして時間を潰していた。
だが、絶対に山頂に向かってはいけないと言われていて、ある場所から奥へは入ったことがなかった。

迷子になりそうだったので、それより奥に行こうとも思わなかった。

ある時、おてんぐ山で遊んでいると、不意に男の子が現れた。
僕よりいくつか年上で、多分小学四年生くらいだろうか。
せみの取り方を教えてくれて、もっといい場所があると促され、僕ははじめて山の奥に足を踏み入れた。
途中のことはあまり覚えていないが、着いたのはおてんぐ山の山頂だった。
小さく狭い山頂には、古いがわりと立派な祠のようなものが建ててあった。

セミをとるのにい居場所とは思えないが、その祠をみて、何か新発見をしたような満足感を感じていたと思う。
しかし、時刻はすでに夕刻で、山頂も薄暗くなりかけており、戻る道はもう暗くなっているようだったため、早く帰ろうと思っていた。
そう申し出ても、男の子は祠を開けて、中の床板を剥がしてほしいと懇願するので、祠の扉を開いた。中にはこれといって石仏や観音の類いもなく、がらんとして埃ぽかった。
床板は剥がせない、と渋って見せたが、彼が言うには、床板の下には何か宝物があるらしい。

苦労して床板の一部を何とか開けることができた。
中には、薄っぺらくてボロボロに錆びた刀剣のようなものがいくつかと、古銭が散らかっていた。
錆びてガスガスだけど本物の刀だと思い、興奮したが、子供の手でも容易に折れるほど朽ちていた。

もっといいものはないかと奥をのぞきこんだが、暗くてよく見えず、見える範囲では目新しいものはなかった。
もっと開けてほしいと頼まれたが、祠を壊すことの祟りや叱責を恐れるべきと、もう暗くなってきたことを理由に拒んだ。

男の子はがっかりした様子だったが、僕に古銭を何枚かよこして、ありがとうと言って、一本道だったが、帰る道筋をおしえてくれた。
不安だったので、一緒に帰ろうと言ったが、一緒には行けないと言われた。
祠はなおしておくから心配無用とのことだったので、僕は暗い山道を懸命に戻った。

途中で心配して探しに出たじいちゃんと出会い、おんぶしてもらって山を降りた。
庭先にはばあちゃんが心配そうに待っていて、ああよかったと安堵しながら、手に何を持っているのと尋ねきた。
昔のお金、これ本物だよね?
と価値の確認のために古銭を見せると二人の顔色が変わった。

男の子がいて、二人で遊んだ事や、祠を見つけたことなどを話し、古銭は彼にもらったものだと話した。

じいちゃんは、他に何を話したか、何か約束をしたか、彼は名を名乗ったか、などを執拗に問いただしたが、具体的なことになると、何故か遠い昔の記憶の様に曖昧であった。

もう、おてんぐ山にのぼってはいけないと釘をさされ、以降おてんぐ山には行っていない。

山にまつわる怖い話60

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