Dさん

怖くないかもしれないけど、ちょっと不思議な話

職場で上司に質問する時、何故か「Dさん!」と声をかけてしまった。
Dさんというのは前の職場でお世話になった人だった。
ただ、些細な誤解から、無視されるようになり、私は職場の人間関係に疲れて転職してしまった。

その後引っ越したり結婚したりなんだかんだとあって、10年近く会ってもないし連絡も取ってないのに、何故か突然Dさんの名前が出てしまった。
上司は「Dさんって誰だよ(笑)」とその場は笑って終わったけれど、
何故かその日から誰かの名前を呼ぶ時、「Dさん」と呼びかけることが多々あった。
一週間ほどでDさんの名前は出てこなくなったけど、何だったんだろうか、と不思議に思っていた。

ある日、昔の職場の後輩に偶然会い、その後食事をする約束をした。
その席で彼女からDさんが先月亡くなったと聞いた。
Dさんは会社で倒れ、救急車で運ばれて一週間ほど生死の境をさまよい亡くなったとのこと。
そして私が最初に上司に「Dさん」と呼びかけた日と時間が、まさにDさんが倒れた時だった。

Dさんと私はその職場の契約社員で、一年ごとに契約更新をしていてDさんが三年ほど先輩だった。
偶然、私が上司と一緒に歩いているとき「契約社員も少しずつ正社員に移行していく」という話を聞き「君も数年すれば正社員予定だから、頑張って働いてくれ」なんていわれて喜んでいた。

ところが、偶然これを見た同じく契約社員のAさんが、聞きかじった話なのに勝手に妄想を広げ「後からきた私子さんだけを正社員にして、他の契約社員は放置される」とDさんに告げたらしい。
Dさんはそれを信じてしまい、その日から突然私にツラくあたるようになってしまった。

半年ほどで私は仕事を辞めたが、Dさんはさらにその翌年に正社員の話を上司がもってきて、その時初めて本当の事情を知った。
Dさんは周りに「私子さんと連絡を取りたい」と言ったものの、家族もその前ニ引越しをしていて住所も変わり、色んな事情が重なって、連絡が取れず、Dさんはことあるごとに「悪いことをした。一度でもいいから会って謝りたい」と言っていたという。

あの一週間、Dさんはもしかしたら私の側にいたのかもしれない。
病院のベッドで苦しみながら、私のところに謝りにきてくれていたのかも。

ほんのりと怖い話53

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