がらがらがら

怖いというか奇妙と言うかそんな感じの話をひとつ。先に言っておくと長文スマソ

母方の実家と言うのが本当に山間の田舎で、今でこそ普通のド田舎だが、十五年ほど前までは、わらぶき屋根の家々が普通に現役だった。
地形的に見ても、村と言うよりは山間の集落みたいなもんで、海へと続く山道に沿って自然と家が集まったみたいな感じの場所だった。

そんな場所だからだろうか、昔話と言うか伝承と言うか、そう言った類のものには昔から事欠かず、当時はまだ現役だった囲炉裏端で爺さんが話して聞かせてくれる胡散臭い話の数々は、その頃、まだ小学生になったばかりの俺や五つ上の兄にとってはそれらはまさしく『水木しげるの世界』のようなもので、夏休みや年末年始に訪れるのをとても楽しみにしていた事を今でも覚えている。

夏休みのある日、毎年のように田舎に遊びに来ていた俺と兄は、これまた毎年の恒例となっていた『家中探検』に夢中だった。
一年ごとでそんなに目まぐるしく変わるわけなど無かったのだが、それでも『本場の』田舎の物珍しさからか、きゃっきゃと騒ぎながら家の中や周囲を見て周るのは非常に楽しかった。

あらかた探索を終えた俺と兄は、すっかり疲れ果て、家の中でも比較的涼しい仏間の畳の上で大の字になって寝転びながら、家から持ってきた漫画なんぞを読んでいたわけだが、暫くすると、ふと兄が何かに気づいたように身体を起こした。

「兄ちゃん、どうした?」
俺が声をかけると兄は「静かに」と俺を制する。何事かと思っていると、俺の耳に「がらがらがら」と妙な音が響いてきた。
思わずドキっとしてお互いに顔を見合わせる。

兄が「聞こえたか?」と尋ねるので俺も「うん、聞こえた」と答える。するとまたどこからか「がらがらがら がっちゃん がらがらがら がっちゃん」とそんな感じの奇妙な音。
気になって音のする方を探してみると、それは部屋向こうの縁側の方向から聞こえてきた。

和風ガラス戸をそっと開けると、そこには縁側が、通路のように伸びていた。
俺たちのいる仏間はその端のほうにあり、眺めてみると向こう端の方になにやら、使っていないであろう何かにシートがかけられていて、その上に荷物が山の様に積まれていた。
そして、

「がらがらがら がっちゃん がらがらがら がっちゃん」
くだんの音は、その荷物の山の中から聞こえてきていた。
俺と兄はびっくりして、婆ちゃんと両親が談笑している部屋に飛んで行って「ば、婆ちゃん! 縁側に何かいる! 何かいる!」と、泣きついた。

両親――特に、父親は怪訝そうな目で俺たち兄弟を見ていたが、婆ちゃんはニコニコしながら「ほんならどこやの?」と、俺たちを促す。俺たちはビクビクしながらも、両親と婆ちゃんを音のした場所に案内した。

荷物の前まで来ると婆ちゃんは何やら訳知り顔でうんうんと頷いている。
何でも「そんな怖いものではないよ」との事らしい。だけど、俺たちが余りにも怖がるものだから親父に頼んで、積んである荷物をどけ、かかっていたシートを剥がすと中身を見せてくれた。

すると、それは、古い足踏み式のミシンだった。
何でも、昔はよくつかっていたのだが、電気ミシンを買ってから流石に使わなくなったので、ここに置いておいたらしい。

「こんな音やったやろ?」婆ちゃんはそう言って、椅子を引き出し腰掛けると、ペダルをぐいと踏み込む、すると響き渡る「がらがらがら がっちゃん がらがらがら がっちゃん」と例の音。
「久しぶりに○(俺の名前だ)くんらが来たからなあ……嬉しがってるんやろ。気にせんでええよ」

嬉しがってるって何がだ? とは聞けずに、俺と兄はシートをかけられ荷物を乗せられてゆく古い古いミシンを、ぼんやりと眺めていた。
ちなみにそれからも時折、例の音は聞こえたが、すっかり怯えきった俺と兄は、一度も縁側に近づくことは無かった。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 83

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