磨りガラスでいっこ思い出したけど、風呂場の扉って、まぁ当然だけど磨りガラスが多いよな。
で、扉開けたら洗面所と脱衣所が一緒になってて、っていう間取りの家は珍しくも何ともないと思う。
俺の家もそんな感じ。
だから風呂場にいたら洗面所に誰かが入ってくるのは見える。
けど磨りガラスだから分かるのはせいぜい服の色くらいで、誰が入ってきたかは分からない。
俺が中学生の頃の、たぶん今ぐらいの時期の話なんだが…
いつものように風呂に入ってたら、誰かが洗面所に入ってくる音がした。
その時はちょうど頭を洗ってたから、入ってきたところは見てない。
でもたぶん母親か父親だろうと思った。姉はまだバイトから帰ってきてなかったし、俺が風呂に入ってる時に家族が洗面所に入ってくるのはいつものことだったから、特に気にはしなかった。
頭も体も洗い終えて、湯船に浸かって一息つきながらふと洗面所の方を見る。
磨りガラス越しに人影が見えた。確かに誰かいる。
でもどう見ても両親じゃないんだよな。
ガラスと湯気でぼやけてて顔は分からないんだけど、服の色が赤いんだ。それも結構派手めの赤。
風呂に入る前に見たときは2人とも赤い服なんて着てなかったし、あれって思った。
けどその時も、姉がバイトから帰ってきたんだと思って深く考えなかった。
姉は化粧でも落としてるのか、やけに長い間洗面所にいた。
いい加減のぼせそうだったから早く風呂から出たかったんだが、ガラス越しでも裸を見られるのはちょっと抵抗があって、じっと我慢してた。
姉はそれからしばらくして、洗面所から出ていった。
それを見届けた後、俺はすぐに風呂から上がって寝間着に着替えた。
文句の一つでも言ってやろうと思って居間に行ってみたが、姉の姿はない。いるのは両親だけ。
「ねーちゃん帰ってきたんやな。部屋にいるん?」
「まだバイトから帰ってきてないでー」
母親にそう言われて、一瞬意味が分からなかった。
「や、でもさっき洗面所にいたで。俺が風呂入ってた時」
「誰も洗面所なんか行ってないけど?」
両親にはすごく怪訝そうな顔されたけど、二人ともその手の話は苦手だったからそれ以上は何も聞かなかった。
それから一時間後くらいに姉は帰ってきたけど、赤い服なんて着てないし、着てたとしてもバイトに行ってた姉が洗面所にいるはずもない。
あの時洗面所にいたのって結局何だったんだろうな…と思い出すと、今でもほんのり背筋が寒くなる。
ほんのりと怖い話59