神様の婿

俺の地元は山中にある集落だった。
だったというのは今ではその集落は過疎や車が必須などの不便さによりほとんどの世帯が山の麓の町に移り住んでるため今では先祖の墓が残っている程度だ。
俺は中学卒業と同時に県外の高校に下宿し、地元に帰るのは1年に一回というのもザラで高校卒業後就職してからはほとんど帰ることもなくなった。

就職して3年ほどたった時実家から一本の電話があった、近いうちに実家に帰って来いというたまにくる催促の電話だ。
俺は仕事が忙しくない時期だったこともあり久々に顔でも出してやるかと自家用車で実家に帰省した。

帰省すると記念日でもないのに親戚一同が揃っていてお帰りと歓迎してもらったが、その時は別に祝日でも正月でもなくただの日曜日だったのでこの集落に住んでない親戚がいるがなぜだろう?と思った。

すると今では故人の祖父が「いやぁ久しぶりだね、これでやっと祝言の儀ができる、よかったよかった」
親戚一同良かったねぇと言っている。

俺はお見合いでもさせられるのか?と思いまだ結婚する気はないとやんわり断ろうとすると
祖父は笑いながら「大丈夫、そういうのじゃないんだよお前にもいいことだからちょっと老人の気休めに付き合ってな」と笑っていた。

その後俺はゆっくりと風呂に入り親戚と他愛もない話で盛り上がりやけに豪華な飯を頂いた、珍しく山の中なのに海の幸をたんまりと食べさせてもらった。

夜の9時ごろだろうか、祖父に呼び出された。
祖父の部屋までいくと祖父と親戚の年長者が車座で座っていた。
祖父に促されて車座の一端に座るといきなり「お前彼女とか結婚を考えている相手とかいるのか?」と聞かれた。
恥ずかしながら20後半にもなり自分は恋人無しの童貞だったので笑い話半分に祖父に言うと本当だな?と念押ししてきたので再度同意した。

なーんか居心地の悪さを感じながらも祖父の話を聞くと「今からお前は神様と契ることになる」と爆弾発言をブチかました。
え?神様と?なぬ?とパニクってると祖父は「なんてことはない寝てれば終わるさ」なんて笑っていた。

その後俺はあれよあれよといううちに離れに連れていかれた。
部屋の中には桶に入った水、布団にまくらが2つ、女物の着物(部屋着?)が掛けてあった。
寝ていればいいと言われていたので直ぐに布団に入り寝入った。

何かの気配を感じて寝ぼけ眼で腕時計を確認した 深夜の2時ごろだった。
何か入ってきた感じはしたが祖父の寝てればいいの言葉を信じてもう一度寝ようと目をつぶった。
水で何かを洗う音と衣擦れの音が聞こえた後何か温かいものが布団に入り込んできた、ちょうど自分を後ろから抱くような感触を感じながらもそのまま俺は眠ってしまった。

朝起きると体が重く身体中が筋肉痛のようであった。
体をほぐすように風呂に入ったあとこれまた豪華な朝食を食べた後また祖父に呼ばれた。

祖父が話したことを要約すると、この山には女の神様がいて長い間独り身であった。
その相手を長らく探していたのだが適当な相手がおらず困っていたのだが丁度お前が年齢も良く相性が良さそうなので当てがった。
多分お前は一生結婚できないが死んだら神になれるし今でも山神の婿だこの先の人生いいことがあるだろうと。

色々理解できなさすぎたが元々楽観的な性格で結婚もどうすっかなーと考えていたので「うーん…まあいいか」と思いそのまま自宅にに帰宅した。

その後10年くらいたったがほとんど浮いた話がないけど大きな病気や怪我もせずにある程度の生活ができている。
今ではちょっと神様の婿というのが楽しみになっている。
そして俺はいま悲童貞と言っていいのだろうか。

山にまつわる怖い話65

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