烏の絵

俺がまだ小学生の頃だったと思う。多分、3、4年生だった。
校外学習だったかなんだかでバスに乗って美術館に行った。
美術館について一通り順路を回った後、指定された時間まで各々自由に見て回って良いと言われたので、仲の良い友人数人(確か自分含めて4人ぐらい)で回ることにした。
最初の内は楽しかったんだけど、俺は正直途中で飽きてきて「早く帰りてー」なんて言ってた。

他の奴らも大体同じみたいでお互い帰りたい帰りたい言い合ってた。
だけど友人の一人、Aと書くことにするが、そいつだけは真面目に絵を見てた。
何だかんだ言っても美術館から出ることは出来ないし、みんなしてAの見たい所をついて回る形になってた。

俺達がだべりながらなんとなく絵を見てたら、Aが立ち止まって動かなくなった。
それまでは立ち止まってもまたすぐに歩き出して他の絵の所に行ってたのに。
確かなんとかの烏ってタイトルだったと思う。烏って部分だけ覚えてたのは、その時は烏って字が読めなかった(友人の一人が読み方を知っていて教えてくれた)って言うのとその絵に烏が描かれていなかったから。

そりゃ絵のタイトルに入ってるものが必ずしも絵にそのまま描かれている訳ではないと思う。
だけど、その絵は明らかにおかしかった。
風景画みたいに湖とその周りの景色が描かれている端っこに奇妙なものが描かれている。
一本の木から紐のようなもので吊されている、黒いもの。
何なのかははっきりしないけど、なんとなく人の形をしてるようにも見えた。
少なくとも烏には見えなかった。

俺はなんか気持ち悪い絵だなぁぐらいにしか思ってなかったし、他の奴らはちゃんと見てすらいなかった。
Aはずっと動かない。声をかけてみても生返事。
ちゃんと絵を見てないとはいえ、いつまでも同じ場所に止まってるのは余計に退屈だ。
そう思って、Aに声をかけた後他の友人達と別の場所を見ることにした。

しばらく見た後、座れる所があったので座って時間を潰すことになった。
その場ではしょうもない話しかしなかったと思う。
そろそろ時間だという頃に集合場所に向かってると、Aの姿を見つけた。
なんとAはまだあの絵を見ていた。
別れてから、10分くらいは経ってたはずだ。
Aにそろそろ集合場所だと告げると、またも生返事だったものの絵から離れて、一緒に集合場所まで向かった。

その日はそれで終わった。
帰りのバスの中でAはいつも通りだったし、俺は大して気にしてなかった。
校外学習が終わった次の日、作文用紙を渡され昨日の感想を書けと言われた。
俺は「とても楽しかった」だのありきたりなことを書いて適当に仕上げた。
一緒に美術館を見た友人はみんな書き終えたが、Aだけは時間内に書き上がらず家でやってくるように言われた。

次の日、昨日書き終わらなかった人たちが作文を出した。Aは出さなかった。
また次の日、この日は締め切りとされていたがAと不真面目な生徒何人かは出さなかった。
この時点で俺は違和感を感じていた。
Aは普段から真面目で宿題を忘れたこともなかった。
普段の態度もおかしかった。
なんだかボーっとして、いつものAとは程遠かった。
そんな状態が一週間くらい続いた。

そんな時、Aが俺に相談してきた。
なんでも、あの日見た烏の絵が頭から離れないのだという。
俺は正直そんな絵のことは忘れてたし、Aがあまりに深刻そうにしてたのでどうしたらいいのか分からなかった。
結局その時どうしたかはあまり覚えてない。月並みな言葉を掛けただけだと思う。
それからまた数日経つうちに、Aはどんどんおかしくなっていった。
状態中一人でブツブツしゃべったりしていた。
保健室に行くことも多くなった。俺も友人達もAとはあまり遊ばなくなった。

そして、ある日それは起こった。
授業の途中、Aは急に倒れた。
椅子から転げ落ちて、体をガクガク震わせていた。
教室がざわつく中、俺とAの目が合った。
すると、Aが叫びだした。
ほとんど聞き取れなかった。
その後、Aは先生に運ばれて保健室に行った。授業は自習になった。

しばらくすると救急車が学校に来た。
窓からAらしき人が担架で救急車に乗せられるのが見えた。
それきり、Aは学校に来なかった。
病院に入院したとも聞いたが、詳細は分からない。
学年がかわる頃、先生がAの転校を告げてからは、何も耳にしていない。

ほんのりと怖い話71

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