誰もいないような山道、深夜の時間帯に出会う白装束の女。
そんな話しは掃いて捨てるほどある。
だがこの話しも、そんな掃いて捨てるような話しの一つ。
ある日、職場の問題でストレスをためていた友人と、車で当てもなく山道を走っていた時の事だ。
同じようなカーブが続く海沿いの山道。俺も友人もその道には慣れていた。
友人は、職場の一人ひとりを吊るし上げ、ネタとして面白おかしく同僚の間抜け振りを話すことでストレスを発散していた。
そんな時、ふと暗がりに人影が浮かんだ。
あっちのものかな?俺も、恐らく友人もそう思った。
しかし不思議と恐怖感はない。
人影は極普通の男性だった。
手招きして俺たちを「こちらに行と」言うかのように誘導する。
友人は車のスピードを落としてその誘導に従った。
しかし、そこはガードレールが激しく破壊されており、そのまま進めばがけ下に落ちる。
友人は車を止めて車外に出た。
俺も続いて出たその時、人影がぴょんと崖下に飛び降りた。
「あっ」と思ったが友人は見ていないのか俺に「あの人は何処に行った?」と聞いた。
俺は「さっきそこに飛び降りたぞ」と言い、二人で崖下を覗き込んだ。
そこにはあろうはずのない場所にヘッドライトをつけたままの車が横転しており、誰が見ても事故だとわかる。
俺と友人は声をかけたが返事がない。
救急車と警察に電話するため友人が携帯の電波があるところまで車で居りている間、俺は救出を試みた。
車は林に引っかかっており、林のそう遠くない向こう側は恐らく海に落ちる崖だ。
暗くてあたりは見えないが、わずかに助手席で人が動いているように見える。
ただ遠い、遠すぎて足場も悪い、到底辿り着けないのが解った。
助手席の人はさっき誘導した人のように思えた。そして突然恐怖が襲ってきた。
誰もいない暗闇の崖下に、一人で立ち、辻褄の合わない状況に置かれていることにふと気付いたからだ。
恐怖が頂点に達し、進むも戻るも出来ない状況で脂汗を流すしかない俺に「消防を待て」!
戻ってきた友人の声が聞こえた。
消防の話しでは、俺たちを誘導し、助手席で手を振っていた男性は転落時に首を折っており即死だったという。
しかし、その他の同乗者、男性の家族は怪我で身動きが出来なかったものの命は取り留めたそうだ。
ほんのりと怖い話73