襖の横の人影

小学校入学直前くらいの頃、私の家族は東京から東北の某県へと引越をした。
最初に住んだのは駅から近い木造アパートの1階。
引越してしばらく経ったある夜のことである。
深夜ふと目覚めた。
当時、二段ベッドの上に寝ていたのだが、私が横になるとちょうど視線の先に低い洋服ダンスがあり、そのすぐ横に襖がある。

そこに誰かが立っている。
雰囲気は女性なのだが良くは分からない。
薄いピンク色の光に包まれ、まるで風にたなびくようにゆらっ、ゆらっ、と動く。
よく見ると、後ろにあるタンスが透けて見えた。

両親は間違えなくベッドの下に寝ている。
下のベッドには妹の足が見える。
怖くて、怖くて目をつぶった。
目を開けたとき消えていることを祈ったが、恐る恐る目を開くと影は相変わらず立ったままである。

そんなことを何時間か繰り返し、うっすらと明るくなった頃、突如その影が消えた。
飛び降りるようにベッドから降り、母親の眠る布団へ潜り込んだ。
朝が近づき、近くには母親が眠っていることもあり、一気に安心感が湧いてきた。
母親が眠る布団の先には居間があり、その隅に座卓型の鏡台があった。

その鏡に人の横顔が写っている。
さっきと違い、はっきり分かる。
おばあさんと思われる女性の横顔である。

その横顔が鏡の縁に乗せたように写っている。
そしてその横顔が、さかんに口を動かし、息継ぐ暇もないほどの勢いで何かを喋っているのである。

鏡台の先には台所と居間を隔てるガラス戸が閉まっていて、それがそのまま写っている。
外の景色等は全く入って来ない。
今度は怖いというより、不思議という感覚しかなかった。
しばらく見ていたが、先ほどのことで疲れていたこともあって、私はそのまま眠ってしまった。

そのアパートでそんなことがあったのはそれ一度だけだったし、子供の頃の話でもあって、夢だったのかも知れない、とも思う。
ただその後、小学校へ入学してからすぐ、アパートの裏手に住む同級生が火事で死んでしまったことをよく覚えている。

ほんのりと怖い話74

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