まあ、怖いっていうか不思議っていうか。
そういう体験は俺も成人するまでは何回かあったよ。
その中の一つ、記憶が二番目に古いやつを話す。
これが一番訳わかんないから。話すかどうか迷ったけどね。
今の学校って七不思議とかってあったりするの?
花子さんとか、目の動くベートーベンとか。
俺が小学校の三年くらいまで通ってた学校にはあったんだけどさ、七つ知っても呪いがあるとか、そういうのはなかった。
で、耳にする七不思議もありきたりなやつ。
さっきの2つとか、深夜にランニングしながら爽やかに挨拶する二宮金次郎像とか。
でも、一つだけ異色なやつがあった。
それが、『中庭に転がる見えない骨』ってやつ。
俺が通っていた小学校には、中庭があったんだけど、妙に薄暗くてムシムシするところだった。
その中庭には、木に囲まれた小さな池があるんだけど、その池の前に、人の目では見えない人骨が転がっていて、それに躓くと消えてしまうだったか、死んでしまうとかって話だったと思う。
ごめん、この辺記憶が曖昧で。
で、俺はこの不思議を目の前で体験したことになるんだと思う。
俺には物心つくぐらいから仲良くしてて、小学校も同じになった友達が3人いた。
名前は仮にA,M,Kにしとく。
で、仕切り屋っていうか、俺たちのリーダー格だったAが、昼休みに中庭に行こうって言い出したんだ。
何でもサッカー友達から、中庭の池にはザリガニがいるって話を聞いたらしく、釣りに行こうという話だった。
その時には俺も七不思議のことは知っていたんだけど、そういうのってまだ疎かったっていうか、信じてなかったっていうか。
とにかく二つ返事でついていったんだよ。
昼休みに一人でいるのも嫌だったしね。
MとKもすぐにOKを出した。
Kなんか、じゃあ餌に給食残しておかなくちゃな!とか言っちゃってすごい張り切ってた。
そして、昼休み。
Kは自ら率先して餌持ち。
Mが図工室から竹串貰ってきて
(適当に理由つければもらえた。作りたいものがあるとか)、
中庭に向かった。
中庭は確か基本的に子供だけの立ち入りは禁止で、先生がついていないとダメだったんだけど、別に鍵がかかってる訳じゃないからすんなりと入れた。
今思うと、あんだけ中庭を囲むように窓がついてて、昼休みだから校舎内は賑やかだったのに、よく誰にも気づかれなかったと思う。
目的の池はすぐに見つけられた。
Mが「先生なしで入るって楽しいな」みたいなことを言ったら、Aが「先生いたらザリガニなんて釣らせてもらえないだろ」って返したのは覚えてる。
何を思ったのか、俺の隣を歩いてたKがいきなり池に向かって走りだした。
いきなりのことで俺も他の二人も反応できなかったけど、すぐにはしゃいでるんだなって思い直した。
で、そのKが、池の前で躓いたんだ。本当に、なんにもないところで。
足がもつれたのかと思った。
結構勢い良く走っていたし、これは池に飛び込むなって思った。
先生にすごく怒られるなーとも。
でも、池にKが飛び込む音はならず、水しぶきすら上がらなかった。
消えた。ホントに、なんというか、パッと消えた。
動画とかであるでしょ?
人が写ってる映像と写ってない映像をつなぎあわせて、人が消えたり現れたりするやつ。
あんな感じ。
本当に、なんの前触れもなく消えた。
俺は焦った。というより、すごくパニックになってたのを覚えてる。
前を歩いていたAの肩を掴んで、「Kは?どこ?どこ行ったの?」みたいなことを言った。
おかしなのはここからだった。
AとMはパニックになってる俺を不思議そうに見つめてから、顔を見合わせた。
そして、Mが言った。
「K?誰それ」
驚いたというか、呆然としたというか。
とにかく、俺は耳を疑ったよ。さっきまで一緒にいたヤツのことを、誰?ってそりゃねーだろって。
でも二人は本当に知らない風で、Aなんか苦笑して、「え?俺ちゃんの友達?一緒に来るはずだったの?」とか言ってきた。
俺はもう訳がわからなくなって中庭から飛び出した。
そこを先生に捕まった。俺たち4人の担任の先生だった。
「こら!そこに勝手に入るなって言ってるだろ」
「先生!Kが!Kがいなくなって!」
「K?」
不思議そうに先生はつぶやいて、中庭に入った。
それから中庭を見回して、「またお前ら3人か。本当に色々やらかすな」って笑ってた。
気まずそうに目をそらすAとMを尻目に先生はもう一回中庭を見渡して、「で?そのK君って、どんな顔してるの?」って言ってきた。
この時の俺のパニックっぷりったらなかったみたいだ。
なんか絶叫しながら廊下を走り去ったらしい。覚えてないけど。
俺が次に覚えてるのは保健室で、泣き疲れて落ち込んでるところだった。
休憩時間にAとMが迎えに来て、心配してくれた。「大丈夫か?」って。
で、保健室から出た後、俺は妙に頭の中がすっきりしてて物事を冷静に見れた。
まず、Kがこの学校にいた痕跡は何もなくなってた。
ロッカーに名札もないし、ランドセルもない。
クラスの集合写真もKがいたはずのところは詰められて撮影されていて。
本当にKはいなくなっていた。記憶にないんじゃなくて、いなくなっていた。
俺は次に、Kのお母さんに聞いてみることにした。
母さんがK,A,Mのお母さんを集めてお茶飲むって言い出して、都合がよかった。
俺はそれとなく、Kおばさんの前で、
「ねえお母さん、Kおばちゃんの家に、俺くらいの子っていないのー?」
とか言った。
そしたら母さん、「何いってんの、Kさんの子供は、あの子だけよ」って言って、Kおばさんの抱いている赤ちゃんを撫でた。
Kおばさん自身も苦笑して、「もうちょっと早く欲しかったんだけどねー」
って言った。
ほんのりと怖い話75