親しくなった下請けの社員とプライベートで飲みにいったときに聞いた話。
そいつが小学校4年生の頃だったそうだ。
土曜日の午後に遊ぶ約束をして、友だち数人と近くの公園で待ち合わせた。
公園といってもいくつか遊具があるだけで砂場には幼児がいるし、野球なんかは当然禁止されてるので、ベンチで少しだべってから、誰かの家に行ってゲームをする予定だったという。
自転車を置いて公園に入ってみるとまだ友だちは誰も来てなかったが、シーソーの横に新しい遊具があるのを見つけた。
それは半径50cmくらいの土管をH字型につなげたもので、1mくらいの土台の上に置かれてる。
あとH字の中央に2箇所上に出られる短い管もついていた。
鮮やかなピンク色に塗られていたんで、きっと小さい子がくぐって遊ぶものだろうと思った。
で、見てたらなんだか入ってみたくなった。
Hの4つある入り口のうちの一つから入って途中のたて穴から顔を出し、入ったのと反対側の穴の一つから出る。
それだけのことなんだけど、穴のふちに両手をかけようとしたら、上手くいかず転げ出てしまった。で、芝の上にうつぶせに手をついたとき、左手の手首から先がなくなってることに気づいた。
ひじょうに驚いたが、痛くもなんともなかったそうだ。
それに手首がなくなっている切り口も、骨が見えたり血が出たりしてるわけでもなく、アルミのお皿のように平らになって鈍く光ってる。驚いて立ち上がって土管を見ると、上に出る短い管の縁を片手だけが握っていた。
他に入った子どももいなかったので、自分の手だと思って登ってみた。
確かに手首から先だけがそこにあるが、引っぱってみてもピクリとも動かない。
強く握ってるから動かないんじゃなく、まるで土管の一部になってしまったような状態だったそうだ。
かなりあせったけれど、さっき入った口からもう一度もぐっていって上をあおぐと、左手の手首から先が下から見えたが、切り口はやはり銀色に輝いていた。
そのとき、もしかしたらと思って左手を上に伸ばしてみた。
するとブウンというモーターのような音がし、磁石がくっつくときのように軽くひっぱられる感じがして、切断面どうしがぴたっとくっついたのだそうだ。
すると指の感覚が戻ってきて、そおっと手を降ろしてみると、何事もなかったようにつながってた。土管から出て手首をよく見てみたが、傷のようなのもなかった。そしたら今あったことが、何か夢の中のような出来事のように思えてきた。
そのうち友だちがパラパラとやってきたが、どうせ信じてもらえないだろうと、手首の話はしなかったそうだ。
飲み屋でここまで聞いて左手を見せてもらったが、薬指の爪の上に絆創膏をしているだけで、まあ特に変わったところもない。
ちょっと信じられないが、作り話にしてはあまりに奇妙なんで、言葉をつなげないでいると、そいつは、「一ヶ所だけのぞいて変なことはないです」そう言って絆創膏をとった。
すると爪が黄緑色になっていて、1cmばかりの、ちょうどもやしの芽のようなものが生えていた。
「あれ以来ずっとこうなんです。しょちゅう切ってるんですけど、枯れることはないみたいですね。親に見せたら医者に連れてかれたんだけど、植物ではなくて爪の形が変化してるだけなんだそうです。実害はないんですが、伸びると何かが起こりそうな気もするんです。それから、公園はもうなくなってるんですけど、その土管は10年以上設置されてたと思います。その10年の間に、その公園にいったという消息を最後に、小学生が2人行方不明になってるんです。いまだに見つかっていませんが、あの土管と関係があるような気がしてならないんです」
とつけ加えた。
不可解な体験、謎な話~enigma~ 104