生贄

はじめに書いておくと、私はいわゆる美人ではありません。
取り柄も別になく、なんの霊感もないし、唯一それっぽい(?)のは異常にトイレをきれいにしたがるところくらい。
そんな不美人で零感な私が小さい頃、なぜか海の神様の子供(?)に気に入られて、生け贄的なものにされそうになったことがありました。
父の実家の漁村での話です。

父の実家の漁村の沖には、海の神様がいる島(江ノ島くらいの大きさで当時は人も住んでいました)があって、私はそこで二度迷子になったそうです。
一度目には海神を祀る海蝕洞で見つかり、「お兄ちゃんに遊んでもらった」と言ったとか。
二度目には見知らぬ若夫婦が私を家まで送ってきて、祖母が私を家に入れてからお礼をしようと外に出たら、若夫婦はいなくなっていたそうです。

その若夫婦の奥さんの方が、数十年前に村で行方不明になった女の子に似ていたらしく、(生きていれば古稀近いはずで、年齢が合わないですが、あの世の人になると年をとりにくくなるみたいな理屈でしょうか?)若夫婦の旦那さんは海の神様、奥さんは行方不明の女の子、そして海蝕洞で私と遊んでいた「お兄ちゃん」は海の神様の子供ではないか、という話になったとのこと。

その島にいる海の神様は亀の神様だそうで、昔いろいろあったみたいですが、詳しくは知りません。
とにかく人間の娘を嫁だか生贄だかに捧げることで、船の安全とか、豊漁とかのご利益をくださるらしいです。
神様に娘を捧げることを「北になる」とか「北にする」とか言って、私の考えでは、北枕、つまり死んでしまうんだと思うんですが、前に北になった娘さんは、ある日ふらりと「海に行く」と言って出かけたまま行方不明になったそうです。

でも誰かが北になるとご利益が期待できるらしくて、網元さんが祖父母に、
「○○ちゃん(私)はいずれ北になるだろうから、そのためにもこの家(祖父母の家)に引き取れないか」
みたいなことを頼みにきたんだとか。

「○○ちゃんも北になれば不自由ない生活ができる」と言われて、父が「不自由させてるつもりもさせるつもりもない」と追い返したそうです。
母に当時の話を聞いたら、なんと網元さんは「結納と思って」と500万円を提示してきたらしく、「いくら積まれても娘を渡したりしないけど、それにしてもたった500万円で娘を寄越せなんてお笑いだ」と母は言っていました。

祖父母の勧めもあって、それ以来父の実家へは行っていません。
でも、ときどき思うんですが、網元さんに義理立てしないといけない関係の家だったり、娘さんに不自由させてしまう生活の家だったり、何かの事情でどうしても現金が必要だったり、そういう家だったら娘を捧げちゃうこともあったんですかね。
それがほんのり怖いです。

ほんのりと怖い話116

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする