真っ赤な大きな傘をさした女

大正~昭和初期くらいの話なんだが、僕の祖父は実家も裕福で自身も社会的に地位のある人だった。
しかも表面上は非常に厳格。だが女性関係だけはアレだった。
当時は珍しい車を所有して、これまた当時は珍しいキャンペーンガールをナンパしてドライブしたり、芸者に入れあげたり、女学校の生徒に手を出したりと派手にやらかしてたらしい。

正妻はいたが遊びまくり。
その中に芸術家の女性がいて中々落ちなかったらしい。
だから正妻にすると約束して落としたらしいんだ。
悲劇はそこから始まった。

芸術家だった愛人は、正妻がいることを知り怒って関係がこじれたらしい。
そんで詳しい経緯は不明だが亡くなった。
それが山の奥深くで見つかったらしい。自殺か他殺か分からなかったらしい。
ま、当時だしな。チンピラを雇って殺害したと推測する人もいたとか。
愛人は正妻からいじめを受けていたらしい。
正妻と愛人を一緒に住ませるとか祖父は狂ってるとしか思えない。

で、祖父は晩年おかしくなったんだな。ある日突然、犬になってしまったらしいんだ。
犬のフリとかではなく犬そのものだったらしい。
吠えて、近寄ると威嚇の声を出し四つん這いになって後ろ足を蹴り上げる。
家中を走り回り糞をする時も犬そのものだったらしい。
人目を忍んで夜に首輪付けて散歩までしたらしい。

ついに家の人は恥を忍んで精神病院に入院させた。
それで東京から名医を連れてきたんだが、脳には何の異常もなく恐らく演技だろうと言われたらしい。
でも正真正銘の「犬」になってる祖父を、演技してると思う人間は誰もいなかったらしい。
しばらくして祖父は体調が悪くなり「犬」のまま亡くなった。

その後、時は流れて2010年を過ぎた頃、僕は突如不思議な夢を見た。
僕は祖父の生家にいて、玄関を開けると真っ赤な大きな傘をさした女がいた。
傘で隠れて顔は見えない。足下はハイヒールを履いていた。
中々スタイルの良い女だ…それで夢は終わった。

そしたらその夢の後、すぐに祖父の生家でゴタゴタがあって家の人が出て行ってしまったんだ。
名家だから断然は勿体無いから誰か住んでくれという話になって、フラフラしていた僕に白羽の矢が立ち、なんと僕はそこに住むことになった。

その後、親戚に色々と家の歴史を聞いたんだ。
室町から続く家で寺とも関係が深く、一族からは大名家の重臣になった者もいるらしい。
でも何よりも僕が驚愕したのは、悲惨な最期を遂げた愛人の話だった。
彼女はハイカラな人でお洒落で、当時からハイヒールを履いていて目立ってたらしい。
そして血のような、真っ赤な傘を差していたと。

僕は背筋が凍るというよりは何かが府に落ちた気がした。
今まで全く興味なかったが、死後の世界ってあるな、という気持ちになった。
もちろん怖い気持ちもある。あの女が僕を呼びに来たとしか思えないし…。
だが病気がちになった僕は、今は怖さよりも切なさの方が強いんだな。
今日は盆だから一族の墓に行って墓掃除をしてきた。彼女の戒名はない。
この話をしたくなったのも彼女のせいかな、なんて思ったりした。
以上、長話すまんな。

ほんのりと怖い話140

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