団地の公園

昔、小学4年の終わりまで雇用促進住宅、所謂団地に住んでた。
ベランダ同士が向かい合わせになる形で1号棟と2号棟の2棟が建っていて、間には広めの公園。
団地の子供以外にも近所の子は沢山遊びに来ていた。

多分小2~3年位の夏休み、正午前に母親が昼飯までもう少しかかると言うので、公園に出たんだ。
早めのご飯を済ませた子とか、これからご飯の子とか誰かしらいるだろうから、遊ぶ約束をしておこうと考えた。

いざ公園に出て見ると誰もいない。人の気配がない。
気持ち悪いくらい静かで、必死で人を探す。
公園の真ん中あたりに何の目的か、コンクリートが丸く広く打ってある場所があって、そこでよく石灰だかチョークだかで絵を描いてたんだが、そのコンクリートの真ん中に立ってぐるっと回りを見渡した。
やっぱり人の気配はなくて、各部屋のベランダにも誰もいない。

普段は本当に賑やかな公園が、普段と違う静かな様子が嫌で、気持ちが悪くて、なんだか鳩尾あたりがググッとなって、本当に気持ちが悪くなってきて、とっくに帰りたくなっていたけどなんだか動けなくて、じっとうつ向いてコンクリートを睨んでた。
ふと、二つのことに気づいたんだ。

人がいないというか、蝉の声もしていない。車とか人工的な音も一切ないってことが一つ。
もう一つは、いつの間にか自分が誰かの大きな影の上に立ってるってこと。
後ろにだれかいるっ!?ってビックリして、それまで人を必死で探していたのになんかダッシュで逃げたんだ。
駆け出したとほぼ同時になにか大きな音が後ろでした気がしたけど、振り返らないで帰った。
息を切らして家に飛び込むように帰ると、普通に母親が昼食の支度をしてた。
今の出来事をどう伝えたらいいか分からなくて結局誰にも話すことなく、でも忘れることも出来ずに、定期的に反芻するように思い出しては嫌な気持ちになってた。大人になっても定期的に思い出してた。

ここまでが子供の頃のちょっと変な体験。
改めて文字にするとほんと何もない、何も起きてないから、当時はこわい話として話すことも出来なかったんだよ。
ただ大人になって少しこの話にオチがついた。

大人になって上京して暫く。
知り合いが結構な高所から落下する事故があって、俺のすぐ後ろに降ってきた事があった。
結構な高さから落ちたが知り合いは奇跡的に助かった。
その時の音があの夏に聞いた音そっくりだった。

小学5年になるときに親父が家を建てて引っ越すことになったが、妹は当時の団地の友達と連絡を取り続けていて、帰省の折りに飲む機会があって初めて妹とその友達にこの話をした。落下事故の音に似てたって話も含めて。
妹の友達はうちの一家が団地に入居するより以前からいて、団地を出たのもだいぶ後だったそうで、さらに長く入居していた老夫婦から聞いたという話をしてくれた。

妹の友達家族が入居するよりさらに以前、団地で女性の飛び降り自殺があったとの事。
飛び降りは飛び降りなんだけど、少しだけ特殊な飛び降りで、その自殺より前から団地や近所に住んでいた人達は皆知っている話だったらしい。
飛び降り自殺のイメージというと、靴を揃えてスッと落ちていくイメージだが、その人は靴も脱がずに、思い切り助走をつけて大の字で飛んだらしい。

団地の公園の中央、地面が土ではなくコンクリートの硬い所を目掛けて思い切り。
落下事故の音でイマイチながらオチがついたと思って人に話したら、さらに妹の友達がオチをつけてくれた。
この話を妹の友達から聞いたのが3年前くらい。

ちなみに蛇足かもなんだが、知り合いの落下事故に遭遇する前から記憶を反芻する中で考えていたことがあって、正午だと自分の小さな影が足元に出来るくらいだよなって。
あの時間に自分が人形の大きな影を踏む状態って、背後じゃなくて真上に?って考えにいつからか思うようになってた。
妹の友達の話で、本当に上で正解だったのかもと思うようになりました。

あの時上を見上げたらもしかしたらなにか見えたのかなとか、いたのかだとか未だに時折思い出しては嫌な気持ちになります。

ほんのりと怖い話143

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