『友達のおじいちゃんの話』
めったに来ないもんだが、来るととても恐ろしいものがある。
波鬼(なみおに)だ。
それは鬼の拳の形をしていて、いきなり海の底から盛り上がって来てな、船を一艘まる呑みにしてしまう。
そいつに呑まれた船も人もな、それっきりで、なーんにも上がってこん。
波鬼が来る前にはな、幾つかきざしがあってな、最初は、魚がまったく姿を消してしまう。
それがどんなにいい漁場でもそうらしい。魚にはわかるんだろうな。
次に、妙に揺れる風が吹く。風と言うものは、まあ普通は横向きに吹くもんだが、その時は縦に揺れると言うか、ほっぺたの横で蝶々がひらひらしてるような、ホワッとして生温い風が吹く。
その後に、波鬼が続いて来るんだそうな。
天気に関係なく、波鬼は来るんだと。
でな、波鬼の兆しを感じたら、とにかく、沖を目指して逃げるんだ。
決して陸の方を向いちゃいかん。
陸に近づくと波鬼は千匹に増えるから、船は逃げ場が無くなってしまう。
その代わり沖へ出れば、波鬼は本物の波に切り刻まれて無くなってしまう。
だから沖へ逃げよと言う訳だ。
オレはじいちゃんからそう聞いたが、見た事はないし、実際に会った奴の話も聞いた事はない。
だが、良くないものに会わずに済めば、それが一番いいと思ってる。
海にまつわる怖い話・不思議な話6