美容院の怪異

6年前の話になりますが、私がある美容院に勤めていた時の話です。

その店舗は、明るい雰囲気で「霊」などという言葉とは、まるで無縁の雰囲気でした。
ただ、たまに「自称霊感がある」お客様から、「ここは、男性の霊がいる」「受付の辺りから、男性の話し声がしている」と指摘される事がありました。

スタッフは、あまり気に留めていなかったのですが、たまたま、チェーン店の一つで、「お化け騒ぎ」がありついでだからと言う事で、心霊駆除で有名だとか言う僧侶を呼んで「お払い」をしてもらうことになりました。

ハッキリ言って、私にはオーナーも馬鹿馬鹿しい事を信じるんだなぁ、と言う気持ちしかありませんでしたが・・・。

実際、当日現れたのは、「織田無道」のような、いかにもの姿の(首に太い数珠をぶら下げ、下駄を履いているような)身体のやたら大きな僧侶。
本部の美容室本部のスタッフも、2人付き添ってきて、大層、大袈裟な気がしました。

本部のスタッフ曰く、例のお化け騒ぎのあった店舗には霊はいなかったとのこと。
地鎮祭だけしてきて、電気配線が接触不良なのを直して来たそう。
どうやら、電気がついたり消えたりするのを怖がった若いスタッフが言い出した噂だったようで、何ともお粗末な結果でした。

さて、私たちのお店はと言うと、その僧侶は、しばらく店内を歩き回っていたのですが
「このお店は、全ての窓が羽目殺しで、開かないことが、不純なものを溜め込む結果となっている」
などと言う内容の事を話し、誰も説明していない(本部スタッフも知らない)のに、受付の前に、『塩、酒(水だったかも?)、米』を並べました。

客が入る前の30分ほど、私達スタッフ、本部スタッフもお払いをしてもらい、特に私達スタッフ6人は、杓子(?)で身体をバンバン叩かれました。

読経の後

「かなり、強い悪霊がいます。今、この塩や、酒に霊を封じ込めましたから午前中のうちに、川に流すか、神社の裏に誰にも見られないように、コッソリ埋めてきてください」

「ただし、埋めたり流したりした後、店に戻るまでは、絶対振り向かないで下さい。誰かに呼ばれた気がしても、絶対振り向いては駄目です。車で行くのも止めて下さい」

「これから、店舗のドアは開けっ放しにする事」

と念を押され、僧侶は帰りました。

その時もまだ、私達は、僧侶の声が馬鹿でかかった事や、大袈裟な話に
大笑いで、話半分に聞いていました。
そして、それが、その後の間違いにつながったのです。

結局、次の日の午前中、私(店長)とサブトレーナー(以下S・T)で神社に埋めるのは、あまりに怪しいので、近所の川に、お供え物を捨てに行くことになりました。

実は、お払い当日S・Tは、店を休んでいたのですが上でも話した通り、まだ私達は、霊だとか呪いだとかを深く考えていませんでした。
S・Tと私は仲が良かったので、お店での開店前のありふれた掃除や所要から解放され、お散歩気分で川まで15分ほどの道を歩くのは、むしろ楽しそうに感じられたほどです。

川に着いて、私がお供え物を捨てようとするとS・Tが、
「店長、水の入っている瓶って、そのまま捨てちゃ駄目ですよね?中身だけ捨てましょう」
と言い出し
『それもそうだ』
と思った私達は、水の入っていた瓶、米や塩の入っていた袋は持ち帰る事にしました。

そして帰り道、しばらく歩くとS・Tが、ふと立ち止まり
「あれ?誰か呼びました?」
と聞くのです。

私が「またまた~~w」と笑うとS・Tも「そうですよね~ww」と、笑顔で返しその時、目に付いた青いゴミ捨て用のコンテナに
「これ、やっぱり持って帰るのは気持ち悪いから、あそこに捨てていきます」
と言って、私の手から、袋と瓶を取り上げるとコンテナに向かって、走っていきました。

その時、コンテナが進行方向より、少し後ろ、つまり、行き過ぎた後、戻る状態で「振り向いた」と言えなくも無い場所だったのが気になったのですが、何度も言うように、もとから今回の話を舐めてかかっていたので、それほど真剣には考えませんでした。

お店に戻って、10分ほどした頃でしょうか。
S・Tが
「何だか気持ちが悪いので、横になっていていいですか?予約が入ったら起きますから」
と言ったときも、霊現象=S・Tの体調が悪くなった事と繋げて考えず、スタッフルームで横になってもらいました。

中には、気持ち悪がる子もいましたが、ハッキリ言って、仕事が出来るタイプのスタッフ達はS・Tの調子が悪いと忙しくなるなぁ、くらいにしか思っていなかったと思います。

ここでS・Tのパーソナリティを説明すると
「年齢21歳。真面目で裏表がなく、スポーツ推薦で高校にも進んだ健康優良児。いままで病気らしい病気はしたことが無く、ここ1年も遅刻、病欠は皆無」
と言う子です。

ですから朝から4時まで寝続けて、
「やっぱり、どうしても無理そうなので帰っていいですか?」
と、彼女が言い出した時は、誰も彼もが、
「チョット、おかしいぞ」
と、思い始めていました・・・。

皆さんもご想像がついているかとは思いますが、次の日の朝、S・Tは出勤してきませんでした。
電話はしましたが繋がりません。

無断欠勤などしたことがないS・Tでしたので、よほどのことだろうと思い、その日はS・T無しで仕事をしました。
夜にも電話をしてみたのですが、携帯も自宅も繋がらず、その次の日になって、初めて自宅に電話がつながりました。

帰ってから「気持ちが悪い」と言って、布団に入ったS・Tは夜中に、丼に何杯もと言う位の血を吐き救急車で市民病院に運ばれたそうです。
しかし、市民病院では原因が分からず、国立病院に移送され、そこで、「大動脈瘤破裂」と診断されたそう。

私には知識が無いのですが、石原裕次郎もそれで亡くなったそうで、動脈の血管が詰まって、コブのようになり、血管が切れる病気だそうです。

病院の医師曰く、
「若い女の子がかかるなんて、物凄く珍しい」
「40代以上の男性がかかる病気」なのだと言うことでした。

彼女は1ヶ月の入院をして胸元を大きく切開する手術を受けました。
退院後は、大事をとって、2ヶ月ほど仕事を休むことにして電話では明るい声で、
「毎日、カラオケとか行って遊んでいるんです」
と、意外と元気で、回復も順調に感じられました。

それなのに手術後、1ヶ月以上過ぎて、「毎日、遊んでばかりで退屈」と、S・Tは、お店に遊びに着た途端、またもや、体調がその場でおかしくなり、救急車で緊急入院することに。

今度は「脾臓」という場所が悪くなっていて摘出する事になったそうです。

その後S・Tの母親からお店に電話があり
「本人が直接、お礼と挨拶に伺いたいのだけれど、もう怖くて店にも行けないし、その店舗のスタッフに会うのも、怖いので、お見舞いも遠慮してください」
と言う事で、それきり彼女に、私は会うことが出来ませんでした。

只、風の便りに、彼女は今は元気で結婚もなさったとの事。
私には、直接、霊が見えたとか、声が聞こえたわけでは無いので「怖い」と言うより、未だに、「不思議」な出来事に思えます。

病院にお見舞いに行ったとき、すっかり痩せてしまったS・Tが
「店長、迷惑かけてスミマセン。でも、お供えをを川に捨てに行ったとき本当に、男の人が呼んだんですよ」
と言ったのが、未だに思い出されます。

私は、未だに霊の存在には、半信半疑なのですがこれは実話です。
長い文章を読んでいただいて、ありがとうございました。

実話恐怖体験談!9

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