見覚えのない男

先輩の話。

夏山のオートキャンプ場に家族で出かけた時のこと。

山といっても人里にかなり近く、水道はおろか水洗トイレまで引かれていたらしい。
小奇麗なこともあり、家族連れでにぎわっていたそうだ。

彼が用を足そうとトイレに近づくと、個室の中から見覚えのない男が一人出てきた。
はて、あんな人が今キャンプしていたかな?
その男は野営地の方には戻らず、立ち入り禁止のロープを越えて森の中へ消えていった。
少し訝しく思ったが、気にせず用を足すことにした。

個室に入った先輩は、便器の中を覗いて腹を立てた。
先ほどの男は、どうやら汚物を流していかなかったらしい。
流そうと手を伸ばした時、それが汚物ではないことに気がついた。
水面にびっしりと、薄いセロハンの欠片みたいな物が浮いていた。
おびただしい小さな虫の羽だった。

彼はキャンプ中、子供が立ち入り禁止地区に近寄らないよう注意したそうだ。

山にまつわる怖い話4

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