何年か前の夏の夜のこと。
どうにも暑くて寝苦しくなった俺は目を覚ますと、目の前に人の脚が見えた。
首だけ動かして上を見たら、脚の主は親戚の叔父さんだった。
叔父さんは何ヶ月か前から癌で入院していて、夜中にこんなところへ一人で来るはずがなかったから俺は直感で「ああ、叔父さんは亡くなったんだな」って思った。
俺が子供の頃から叔父さんはよく一緒に遊んでくれて、とても優しい人だったしぜんぜん怖いとは思わなかった。
不思議だとは思ったけど、安らかな気持ちになって俺はそのまま目を閉じて眠った。
翌朝、起きて居間に行ったら母親から昨夜遅くに叔父さんが亡くなったことを聞かされた。
ああ、やっぱりなって感じだった。
子供のいなかった叔父さんは、俺を本当の息子のように可愛がってくれたし、きっと最後のお別れを言いに来てくれたんだな。
ここまではよくある話。
次の日、叔父さんの葬儀に参列した俺は慣れない葬式に疲れて、その日の晩は早めに床についた。
ほどよく眠気がやってきてウトウトしかけた時、また目の前に叔父さんの脚が現れたんだ。
今度は俺もお別れを言うために、叔父さんを見ようとして顔を上げた。
そしたら叔父さんの顔は真っ青で無表情だった。
頭の部分には何か黒くてモジャモジャした毛の塊みたいなのがくっついていて、それが左右にぶるぶる震えながら動いているように見えた。
それ見たら、物凄い嫌悪感と気持ちの悪さが沸いてきて、たまらず俺は上半身を起こした。
すると叔父さんの姿は消えていてどこにもいなかった。
次の日の晩も、またその次の晩も叔父さんは俺の部屋に現れた。
頭の上には相変わらず黒い毛玉みたいなのがくっついていて、最初に見たときよりも少し大きくなってるように見えた。
こころなしか無表情だった叔父さんの顔も泣いているようだ。
なんだか急に腹が立ってきて、叔父さんから黒い毛玉を引っぺがしてやろうと手を伸ばしたら、途端にスッと叔父さんごと姿を消してしまった。
これはただごとじゃないな。
そう思った俺は、翌日学校を休んで叔父さんの家に行った。
葬式が済んで、少し落ち着いたところに申し訳ないと思ったけれど、俺は叔母さんに理由を話し、叔父さんの位牌を借りて寺で供養してもらうことにした。
急な話だったけど、正直に理由を話したら寺の住職はすぐに供養を引き受けてくれた。
住職は位牌堂の祭壇のようなところに叔父の位牌と供え物を置いて、お経を唱え始めた。
俺と叔母もその後ろで手を合わせて「どうか叔父さんを助けてください」って必死に祈った。
しばらくして、祭壇のほうから突然ボタッと何かが落ちる音がしてびっくりした俺は、祭壇の下を見た。
そこには、あの黒い毛玉みたいなのがのたうちまわっていて、よく見たらそれは、落ち武者の生首みたいなものに直接手足が生えたような気持ちの悪い化け物だった。
生首は、しばらくのあいだ祭壇の下をバタバタ暴れまわっていたけど、お経が終わる前に短い手足を動かして位牌堂の外へ逃げていった。
叔母もそれを見てしまったのか、すごく真っ青な顔をしてたな。
今起こったことを住職に伝えたけど、住職にはあれがみえていなかったのか「わからない」と一言だけ言った。
ともあれ、その晩から叔父さんは俺の目の前に現れることはなかった。
結局、化け物の正体が何なのか分からなかったけど、たぶん叔父さんは亡くなって成仏する前に「悪い何か」に捕まったんだと思う。
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