これは人に聞いた話。
その地方では、春に田の神様となって里に下りて来られた山の神様を、秋に我が家にお迎えし、正月に歳徳神になって山へ戻られるまでお世話する。
そして、田の神様をお迎えに行く朝、夜明け前のまだ暗い頃に、部屋の中にシャラシャラ…と神社の巫女さんが持つ鈴の音にも似た、稲穂を振る音がする年がある。
時にはさりげなく、時には舞うように、それは姿を見せぬまま家の中を通り過ぎて行く。
そんな時は、夜が明けて、家の主人が釜と朸(おうご)を持ち、田の神迎えの為に残しておいた12株の稲穂を刈りに行くと、稲穂がぱったり倒れてしまっている。
例年ならしゃっきり立っているのだが。
「でもね、それは吉兆なんだ。その年はね、家族が増えるんだ。稲の倒れた方向にね」
教えてくれた人はそう言ってニコニコ笑っていた。
山にまつわる怖い話23