大学から帰宅途中のことだ。
いつも同じ道を通って帰るのだが、その道すがらにある一軒家で、大型犬を飼っている家があった。
車庫の中に犬小屋があり、車庫には格子状のシャッターが下りていて、その中で自由に犬が動き回れるような状態になっている。
ゴールデンレトリバーだろうか、詳しくないから犬種はわからないが人懐っこい犬で、ちょうど俺が帰る時間にはシャッターの傍に座っており、道行く人をじーっと眺めている。
名前を『アル』(表札に書いてあった)といって、帰り際にこいつを撫でてやるのが俺の日課になっていた。
ある日の帰宅中、いつものようにそこを通りがかると、アルの姿がなかった。
珍しいなとは思ったが、別段気にはならなかった。
たまに、この時間になっても小屋から出てこないことがあったから。
気分の問題かなんかだろう。
しかしそういうときでも、名前を呼べばうれしそうに小屋から出ててくるので、俺は小声でアルの名前を呼んだ。
すると、
ズル…ズル…
車庫の奥から、何かを引きずるような音が聞こえてきた。
やはり小屋に居たらしい。
しかし、何か変だった。
いつもは勢いよく飛び出してくるのに。それにこの引きずるような音は…
犬小屋のある奥の方は暗がりになっており、様子を窺い知ることはできない。
ズル…ズル…
音が段々大きくなってきた。それになんだか、生臭い。
俺はもう嫌な予感しかしなくなっていたが、アルが現れるのを待った。
やがて、日の光が差し込むところまで、音の主がやってきた。
「そいつ」は足が7本あった。
7本とも大きさは不ぞろいで、中には地面に接していない足もあった。
体毛はところどころ抜け落ち、体のあちこちで骨や肉が露出して、内臓が垂れ下がっている。
そして、顔があるべき場所には顔がなかった。いや、というより、顔がふたつあった。
人間の顔だった。
う、あああああああああ!!
叫び声をあげて、俺は逃げ出した。
走り際に表札を見ると、『アル』と書いてあるはずの場所には『ネ・遙?シ』とだけ書いてあった。
後になって、話を信じない友人と二人でその家に行ったのだが、
「アルは天国に旅立ちました。アルをかわいがって下さった皆さん、本当に感謝しております」
という張り紙が車庫のシャッターに張られていた。
表札の『アル』の文字は取り外されていた。
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?252