小学校のころのこと。

よくある鉄筋コンクリート式の小学校だったと思う,廊下に立ったとき、片面は窓辺で、反対側は教室か階段がついてる感じの建物。
教室はその廊下の短辺の両端と、この廊下に沿って並んで配置されてる。
階段はその両端の部屋の手前、に配置されてた。
とにかくこういう、どこにでもあるような、ステレオタイプな小学校だった。

小学二年生のころ、何かの課題で居残りをしていた。
早めに終わって帰宅しようとすると、友達の、
「待っていて、一緒に帰ろう」
の一声で、待つことにした。

秋口だったか、校内放送で下校の時刻を放送されたころには、外は真っ暗だった。
私の教室はちょうど隅の教室で、廊下で友達を待っていると、すぐ目の前は階段がある。
私は窓を背中にして、ぼうっと待っていた。
そうして私はぶらぶら、時折窓の外でぶうん、と音を立てて通っていく車の音と、車のライトで照らされて出来る私の影,車の移動にあわせて伸び縮みする自分の影を見ていた。

そのうち飽きてきて、
「まだ終わらないの?」
と友達にきいた。
「もうすぐだよ」
と、先生にプリントを提出しながら友達が返事をした。

もう終わりそうなら待とうかな、と思って教室から視界をずらして、またぶらぶらしていると、何度目かのぶうん、という車の音と、私の影が映った。

その時、私の影と一緒に、階段を降りてきて、くるりと踊り場を回っていく形の影が映った。
その影は、私の影と一緒に光にあわせて伸びをして、階段を降りていく形でたんたんたん、と足踏みをしている。やがて、車が通り過ぎて、消えた。

状況として判りにくいと思うけど、上に上る階段側の踊り場付近に、上の階の影が移って、下へ向かう階段の踊り場に、自分の影が移る状態だった。だから上に人がいたら、上の階段をみてると、その影が移っているというわけ。

(誰か降りてきたのかな。)
そう考えて、上の階段をのぞいてみる。
ぶうん。
車が通った。
またくるりと翻る影が映る。

その時、小学二年生の馬鹿な私にもわかった。
その人の降りてくる音がしない。し、影が見えて、くるりと回転するところが見えたのに、人がいなかった。そんなはずが無い。
確かに階段を降りてくる影だったのに、くるりと回転したのに。
すぐに本人が姿を見せないなんてあるわけない。

瞬間、ぞくっとして、怖くて、教室の友達を見た。
友達が笑顔でこちに向かって来ている最中だった。
「早く帰ろう!」
怖くて、そう言うが早いか友達の手を握って走った。
友達は何故走るのか判らないからか、なかなか走ろうとしてくれない。
わたしたちは、階段を下りていく。

ぶうん。
音がして、また踊り場に影が映った。影はくるりと反転する。
その時思った。私がいるのは二階だった。影は三回目のくるりをした。
直感的に、それといま同じところにわたしはいる、そう思った。

たんたんたん。影が降りてくる。
友達は走ってくれない。
やがて、
(追いつかれる!)
そう思って、友達の手を離して、階段を飛び降りることにした。

瞬間、ぞくっと、心臓が大きく跳ねるような悪寒がした。
「きゃっ!」
どたん!と着地して、横を見ると、友達もいる。
さっきの声は、彼女からだった。
何故か私と一緒に彼女も飛んだのだ。

「いま、ぞくっとしなかった?」
「した!」
彼女になんといえばいいのかわからなくて、でも彼女もこわいね、暗いよね。
といい、走って帰った。

後になって思い出すとき、この体験の奇妙な点をいつも思う。
ひとつめは、何度も踊り場を反転する影のこと。
二つ目は、その影自体。
廊下側に接している窓から強い光が入り、影が映る。廊下に立ってる私の影が映る。

これは説明がつく。
でも、なんでくるりと反転する影が映ったんだろう。
車が通り過ぎていくと、影の映る位置も変化する。
光は、移動していくから、影も移動して、定点にいても、伸び縮みする。
窓際にいないと、影は映らない。
光とともに移動するあの影はなんだったんだろうと思う。

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