友人の話。
夏山に単独入山していた時のこと。
その時の彼は体の調子がいまいちで、くしゃみがひどかったのだそうだ。
夜も更け、そろそろ寝ようかと片付けている頃。
特大のくしゃみが一発、山の静けさをかき乱した。
やれやれと鼻を擦っている丁度その時、近くの藪から音が聞こえた。
ホッホッホゥ
まるで梟の鳴き声のようだ。何やら喜んで笑っているらしい。
彼が身を硬くして黙り込むと、藪の中の声は不満そうな調子に変わった。
なぜだか彼は、くしゃみをせがまれている気がしてならなかったという。
我慢しきれなくなり、新たなくしゃみが一発出た。
ホッホッホッホゥ!
間違いない、藪の中の何かは喜んでいる!
彼は慌ててツェルトに潜り込んで、寝袋にくるまった。
もうそれ以上、くしゃみをせがまれることはなかったが、その夜起きている間中、彼のくしゃみに続いて「ホッホゥ」という声が響いていたそうだ。
翌朝、藪を確認したが、もう何も発見できなかった。
山にまつわる怖い話10