エレベーターの女

3年くらい前の夏、当時勤めていた会社のビルでの出来事です。

会社はビルの7階(たぶん)にあり、エレベーターに乗って帰ろうとエレベーター乗り場に行きました。
夜9時半くらいのことで、周りは非常灯程度の明るさでした。
9階で止まっていたエレベーターが7階に着き、乗ろうとしたその時、中に40代~50代くらいの女の人が乗っていました。

「あれ?9階でとまったままだったし、8階で止まった様子もなかったよな?」
と思いましたが、疲れていたし早く帰りたかったのでまあいいやと思い、エレベーターに乗り込み、1階のボタンを押しました。
すると、その女性に話しかけられました。

「これって、屋上へは行かないの?」
驚いて彼女を見ると、泣いています。
(何でこんな時間に屋上・・・?それに何で9階でずっと止まってたんだ?)
と思いましたが、とりあえず
「この時間はたぶん閉鎖されてると思いますよ」
と返事をしました。

するとさらに泣き出しました。
(え?まさか自殺志願?なになに、どうしよう困ったな)
と思いつつ、他に何もできず、ひたすら彼女を慰め励ましていました。

こんな年(当時23歳)の、しかも見ず知らずの小娘の言う励ましが、どの程度彼女に届いたかはわかりませんが、彼女はビルの出口までついてきて、泣きながら「ありがとう、あんたいい子だね。あんたにはきっといいことがあるよ」とお礼のようなことを言ってきました。

なんとなく不安だったので、タクシーにのせるか、駅まで一緒についていくかしたかったのですが、彼女に頑なに拒否され、入り口に彼女を置いて帰ることになりました。

翌日、会社の先輩にその話をしたところ、
「私、あなたの帰ったすぐあとに帰ったけど、そんな人見なかった」
と言われました。
まあ、それは彼女が私の帰った直後にそこを去っていれば当たり前のことなのですが・・・。

でも、気になるのは、なぜ9階で止まったままのエレベーターに乗っていたのか。
また、泣いていたのは、屋上に行きたがっていたのはなぜなのか。(やはり自殺・・・?)
そして、彼女は今どこでどうしているのか。
この季節になると思い出します。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 21

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