双眼鏡ごしに見える人々

山道を歩いていて、ふと見渡したら1人だった。
前を見ても、来た道を振り返っても、誰もいない。
登山客とは頻繁にすれ違っていたはずだった。

気にせず歩き、見晴らしの良いところまで登って、適当な岩に腰掛ける。
相変わらず、周りには誰もいない。
午後2時、そんなに遅い時間でもない。

つまらないので戯れに双眼鏡を取り出し、眼下に見える、自分が登ってきた道を眺める。
ぱらぱらと、登ってくる人の姿が見えた。
もう20分くらいで、ここに辿り着くだろうか。

双眼鏡を下ろし一服したが、今の光景にどこか違和感を感じていた。
何となく、登山道に目をやった。

誰もいない。

目はそんなによくないし、見間違えかと思って再び双眼鏡を手に取る。
双眼鏡では、やはり人が見える。双眼鏡を外して見ると、いない。

三度、双眼鏡ごしに見ると、レンズ越しに彼らと目が合った。
無表情にこちらを見つめる。
もう10分もすれば、彼らが来るだろう。
しかし、理由のわからない悪寒に襲われ、震える足で先を急いだ。

山にまつわる怖い話26

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