友人の話。
秋の山に一人でこもっていた時のこと。
朝方、肌寒さを感じて目が覚めた。
目の前に火の気の絶えた焚き火跡がある。
迂闊にも、焚き火にあたったまま、外で寝入ってしまったらしい。
伸びをしていると、おかしな物が傍らに転がっていることに気がつく。
縁の欠けた丼と、薄汚れたサイコロが二つ。
そして、山と盛られたアケビと茸。
他にも焚き火の周りには、空になったビール缶と竹筒が残されていた。
ビールは彼が持ち込んだ物だが、他は記憶にない。
竹筒は水筒みたく加工されている。
小さく空いた口に鼻を近づけてみると、微かにアルコールの香りが感じられた。
しばし腕を組んで、昨夜のことを思い出そうと努力した。
そうだ、確か誰かと愉快にチンチロリンをしたような気がする。
念のため自分の荷物を確認してみると、厚手のナイフと煙草が無くなっていた。
アケビと茸の山を見やる。どうやら戦利品のようだな。
ただ一体誰と賭け事をして遊んだのか、それだけがまったく思い出せない。
今でも、それが何より残念だという。
山にまつわる怖い話19