友人の話。
彼の実家は山の中にあり、今でも薪を焚いて風呂を沸かしている。 
先日久しぶりに里帰りした折、偶にはと彼が沸かすことになった。
慣れないことで手際は悪かったが、何とか火を点けて一服していると、どこからともなく小さな歌声が聞こえてくる。
初めは空耳とばかり思っていたが、やがて気がついた。 
歌は正に目前、釜の炎中から聞こえていたのだ。
不気味に思ったが、実に楽しげで気持ち良さ気な様子。 
母屋の祖父に相談してみた。 
祖父さんはちょっと顔を顰め「こりゃ今日は風呂抜きだな」とこぼした。
普段と同量の蒔を燃したのに、風呂桶の水は最後まで冷たいままだった。 
仕方なく家族皆、その日は行水で済ませたという。 
なぜか理由を聞く気にはならなかったそうだ。
山にまつわる怖い話20
