私の体験した話。
初めて一人用ツェルトを買った時、嬉しくて、何泊か山で過ごす計画を立てた。
初日にキャンプしたのは、ある鄙びた神社の外れだった。
境内から少し下った所に滝があり、辺りは開けた砂の河原になっている。
一目で気に入り、そこで一泊することにした。
夜も更けた頃、カンテラの灯を落としてシュラフに潜り込んだ。
滝のドゥドゥという音を聞きながら微睡んでいると、突然世界から音が消えた。
痛いくらいの静寂に驚き、ツェルトから飛び出すと―
滝が制止していた。まるで時が止まったかのように。
宙の白い飛沫や淵の波紋までが、月明かりの下くっきりと見える。
辺りは何の音もしなかった。世界で動いているものは、私の鼓動と数匹の蛍だけ。
去った時と同様、唐突に音が戻ってきた。
同時に滝が再び流れ始め、水の轟きが響き渡る。
私はしばらく滝の前に立ち尽くしていた。
蛍は何事もなかったかのように舞っている。
凍えるような、それでいて泣き出したくなるほど、儚く美しい光景だった。
もう一度目にしたいが、今のところ叶わないでいる。
山にまつわる怖い話20