白いお化け

本当ごく最近の話。

小学生の時の同級生だったケンちゃんが亡くなった、自殺だったそうだ。
それほど親しい間柄でもなかったが、一学年50人ほどの小学校だったのでどんな奴だったかは良く覚えてる。

小柄で、ひ弱で、頭に障害があって6年生の時は特別教室に通ってた。
自殺した原因も、社会に適応できなくて…、てな感じだったらしい。
ただな、その話を聞いてはっきり思い出したことがある。

ケンちゃんはもっと低学年の頃は、正確に言うと2年生のある日まではごく普通の子供だった。
ちょっと内気だけど、絵を描くのが大好きで、特に車を書かせたら子供心に上手いと感じさせる絵心の持ち主だった。

ケンちゃんがおかしくなったのは2年生の秋、写生大会で2年生は近所の公園で絵を描いていた時のこと。突然叫びだしたんだよ。

「白いお化け!白いお化け!」

ってな。
本当に狂ったように大泣きして、普段のケンちゃんとは明らかに様子が違ってた。

その二つが組み合わさった時、俺は一つの仮説を考えたんだよ。
この板に来る人なら「くねくね」って聞いたことあるよな。
兄弟の話なんか、良くコピペされて貼られてるの見るし。
見る人を狂わす、夏の蜃気楼のような…。
ケンちゃんはそれを見たんじゃないかと、でなければそれに類似した何かを。

そう考え、あの秋の日の公園の光景をもう一度思い出してみた。
芝生・築山・落ち葉…、隣接する田んぼはとうに収穫を終えていて畦道にススキがたくさん。
俺たちは…、さっさと絵を描き終えると数人で森の中を探検、森の奥で発見した渋柿の実を宝物のように持ち帰ってきた。

ケンちゃんは…、そうケンちゃんは森の片隅の朽ちた廃車をスケッチしてた。
森の中に入るときにちらっと見ただけなんだけどな、なんとなく覚えてたんだ。
今思うと不思議な題材だけど、当時の俺にとっては何の疑問も抱かなかった。
公園の隅で、森の中の朽ちた廃車を、黙々と一人で写生する少年。
しかもその少年がおよそ1時間後に発狂、ちょっと怖くなった。

小学校以来の友人で、今でも家族ぐるみの付き合いをしてるショウ君にそのことを話してみた。
ちなみにショウ君も一緒に柿の実を獲りにいった面子だったがそのことは全く知らなかった。
その代わりと言っちゃなんだが俺が仰天するようなことをショウ君は知っていた。
以下、その時の会話、他に俺嫁とショウ嫁がいて4人で呑んでました。

シ「ていうかな、ケンちゃんが自殺したのってその公園らしいぞ」
俺「えええええぇぇぇぇぇ、あの小学校の隣の?」
シ「ああ」
俺「まだ、あったの?あそこ?」
シ「あの辺、国道から離れててほとんど開発されてないからな」
俺「知らんかった…(隣町に家買って引っ越してたので実家周辺は疎くなってた)」
シ「言われてみれば廃車があったような気がする…」
俺「いや、さすがにそれはないでしょ、20年以上前よ」
シ「じゃあ、見に行ってみよーぜ、今から」
俺「マジ?」

怖いからと言って嫌がる嫁に無理矢理運転させて、途中やっぱり小学校以来に友人のミツ君も連行し、酒の力も借りて夜の公園に降り立った大人四名、ショウ嫁は来ませんでした。
こんなもんだったっけと感じるくらい小さな公園、水路が最近整備された形跡がある以外はほとんど当時の面影を残していた。
俺が「森」と呼んでいた所も実際は公園と隣の農地との間の原っぱの雑木林ほどしかなかった。

しかしショウ君の一言でそんな懐古の念も吹っ飛んだ。
「あの辺らしいよ」
ショウ君の指さす先は先述の雑木林、もう葉が落ちていて枝の向こうに民家の明かりが見えていた。

しかし、それを聞いたときに俺が感じたのは、ここでケンちゃんが死んだ、ということでじゃなくてなんでケンちゃんはここで死んだのか?、ってことだった。ケンちゃんの正確な自宅は知らないが通ってた地区名から判断する限り、この公園に来る必要性は全く感じられない。

「車は…、なかったけなぁ…」
「車?」

ショウ君の言葉にミツ君が反応した。

「ここら辺に廃車とかなかったっけ?」
「あああぁぁぁ、あったかもしんない」

ミツ君の言葉に心臓がドキリとする俺。

「冷蔵庫とか夜中に不法投棄する奴がいっぱいいてさぁ、町に頼んで全部回収してもらった時に片付けたのかもしれない、結構最近の話だよ」

ミ「しかし、良く覚えたたな、ケンちゃんがおかしくなった日なんて」
シ「もしかするとお前がケンちゃんがまともな姿を見た最後の奴かもしれないんだぞ」
俺「な、なんか責任重大になってきたな」
ミ「しかしあの車さぁ」
シ「そうそう、俺らが壊したやつだろ」
俺「ほわっつ?」
シ「ほら、みんなで壊したじゃねーかよ、6年生の時」

はっきり思い出しました。
ちょっと…、いや、相当やんちゃだったあの頃、石やら鉄パイプやらで5年生数名も交えてみんなで壊しました、どうせ廃車だからと…。
フロントガラスが割れた時、近所のおっさんが飛んできて怒鳴られたっけ…。

当時、雑木林の向こうに見える田んぼのあたりで砂利掘りの工事をやっていてその折に乗り捨てられた車とばかり思っていたんだけど、ケンちゃんの写生の話も総合するともっと昔から放置されてたわけで…、あ、あー、なんか色々思い出してきた。
俺、あの車に乗ったこともあった…。

小学生の頃の同級生でユミコってのがいてな、元気一杯に俺にひっついて回ってた。
当時は仲の良い同級生くらいに思ってたけど、少し考えれば相当好かれてたんだと思う。
何かと理由をつけてはうちに来てたし、普通に一緒にお風呂に入った記憶もある。

で、俺姉とユミコ兄が小学校の近所の算盤教室に通ってたんだけど、お袋と一緒に迎えに行って時間まで待ってる間、件の公園でよく一緒に遊んでた、1年生の時の話だ。
その遊びの一つに「ドライブごっこ」ってのがあってな、ユミコと二人であの廃車に乗ってハンドルやスイッチをガチャガチャいじりながら遊んでたんよ。

…、つまりあの廃車は俺が1年生のときには有ったってことになる。
あの車が、近年流行りの練炭自殺とかの現場で、その霊がくねくねになってケンちゃんを狂わせた…、って仮説を立てるなら、俺などかなりの高確率で呪われてなければならない。
ほっとすべきか…、もっと怯えるべきか…。

それから数日後、と言うかつい10日ほど前、俺はショウ君とミツ君と連れ立ってケンちゃんの家に行った。
表向きは旧交をしのんで、しかし実際はこの話にすっきり決着をつけるために。
3人揃って上手な嘘がつけない性格なせいで、ケンちゃん母に考えてることをそのまま説明した。

ケンちゃんがおかしくなった日のこと、そして絵のこと。
もし、その時の絵が残ってるなら見せて欲しい、と頼んだ。
一般常識に照らし合わせればとてつもなく迷惑な話だと思ったのだが、ケンちゃん母は快く協力してくれた。

ケンちゃん母は几帳面に遺品をとって置いたらしく、一つ一つ説明を交えながら年代をさかのぼっていく。
絵を描く類の仕事で自立しようと考えていたそうだが、素人の俺が見ても稚拙な絵で客商売でお金がとれるものではなかった。

俺が上手いと感じていた車の絵ですら落書きに色をつけていただけの物に感じた。
しかしだな、年代が遡るほど、つまり子供の頃の絵ほど雰囲気が違うんだよ。
構図は立体的じゃなくて、真横だったり正面だったりするんだけど、どこか写実的な感じがあって、ふらふらした線ですら技術の一つとして意図的にやっているのではと感じさせるほどだった。

「「「 あ 」」」

ある一枚で3人同時に息を呑んだ、白い車、真正面の少し上から見下ろした感じ、描きかけだったけどこれがあの絵だということはすぐに分かった。

ケンちゃん母も説明を止めた。
他の絵との決定的とも言える相違点…、人が乗っていた、運転席と助手席に二人。
顔は描かれていないが髪形から運転してるのは男、助手席は女だと分かる。
もっと言うなら、あの雑木林に捨てられていたはずの廃車が道路を走行していた。

………、気まずい空気を察知したケンちゃん母が「息子の話を長々と…」と切り上げてくれた。
挨拶をして帰途に就く俺ら三人、まずいものを見てしまった感を打破するために(?)、俺は一つの仮説を二人に話した。

良くユミコとドライブごっこをしてた、ケンちゃんは実はユミコが好きだった、廃車の中で俺といちゃつくユミコの姿を思い出し、好きな車とユミコを両方取られた気持ちになって発狂した、と。

「じゃあ『白いお化け』ってなんなんだ?」
「…、精子だ」
「………、ダハハハハハハハハハハハハ!!」

とっさに出た冗談だったけど二人が爆笑してくれたおかげで気持ちが緩んだ。
今日に至るまで、とりあえず何も起きてはいない、しかし何というか、色々と俺が関わってしまいそうな話なので気が休まらないのも事実です。
謎と言うか、何故?な部分も多すぎるし。
あの絵の人物は俺なのでしょうか?

死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?230

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