人型の空洞

空気も読まずに、現場監督に聞いた話しちゃうんっすけどね。

治山工事で小さいダムを作った時に、工期オーバーしてしもたんで途中まで出来上がった段階で県の検査を受ける事になりました。
その際、ちょっとでも多くの金を早く貰おうっちゅーわけでギリギリまで生コン打ってジェットヒーターで養生して…と典型的な突貫作業をやった挙げ句、型枠バラしたのが検査前日。

そんな涙ぐましくもガメツい企業努力も虚しく、検査では最後に生コン打った箇所の強度が出なかったんです。
検査官が打ったシュミットハンマーが「ポコン」と嫌~な音を立ててあり得ないくらい低い数値を示したのが運のツキで、現場監督がアワ食って計り直しても、結果は似たり寄ったり。
どー考えても、内部にデカイ空洞があるとしか思えません。

「ハイ!やり直し~」
キレ気味に現場を去ってゆく検査官を見送った監督は、とりあえず若手の人夫を軽くどつく→生コンの会社に苦情の電話をブチ込むという典型的な土建屋式トラブルシューティングを行ったうえで(空洞が大きい場合はモルタルを充填しても上手く一体化しないので)問題の箇所を一旦壊すことにしました。
ただし、原因が何かを突き止めるために慎重に。

コンクリートを割ってみると確かに内部に空洞がありました。
高さ1m強、幅60~70cmくらいの体操座りをした人型の空洞。

逃げ出さずに残った人夫を集めてミーティングしましたが、そんなもんの原因なんか分かるハズがありません。
ドロドロの生コンの中に人が入り込んだとして固まる前に外へ出たら空洞はできないし、かといってそのまま居たら即身成仏が残っているハズ。

「えらい災難やで。社長に怒られるわ、追加の賃金は自腹切らされるわで幽霊か化けモンか知らんけど、人の迷惑考えろっちゅーねん」

「ほな、結局原因不明のままっすか」

「せやな、まぁ小さいダムやったから原因不明ゆーて済んだけど、ごっついダムやとホンマにな、動かれへんよーになったヤツとか……」

こっから先は別の意味で怖い話になったんで省略します。

山にまつわる怖い話29

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