大型の獣

F夫妻の話

ハイキングに行き、緩い傾斜の山道を登っていると、前方から大型の獣が降りてくるのが見えた。

手近な木に昇り様子を伺っていると、獣は時々、立ち止まって頭を下げるような仕種をしながら、トットトットと近づいてくる。
その姿は獣と人の合いの子のようだった。

四つん這いで器用に歩き、髪と髭が境目なく伸び、全身茶色い毛皮で覆われた様は、人間とは掛け離れていたが、顔付きは人間に近く、夫妻のいる木の下まで来ると、ペコペコ頭を下げながら
『本日は誠に結構なことでございます』
と挨拶をして去っていったそうだ。

山にまつわる怖い話29

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