小学生の頃、私は少年サッカーのチームに入っていました。
ある日の放課後、私達はいつものようにサッカーの練習をしていました。
その日はグランドを二分割し、一方でソフトボールの練習もやっていました。
パスの練習をしている時、私の相方が見当はずれの方向にパスを蹴り、ボールはコロコロと転がってグランドの端にある渡り廊下に入り込んでしまいました。
しかたなく、私は小走りでボールを取りに行きました。
その渡り廊下は校舎と講堂をつなぐもので、風雨を避けるために白い半透明の波板で囲われていましたが、陽光が透けて中は明るい感じでした。
一方の壁際には下駄箱がズラリと並び、もう一方の側には傘立てが一列に置かれていたのですが、その傘立ての隙間にサッカーボールが入り込んでいました。
それを拾って廊下から出ようとした時、ソフトボールの練習をしている子が外から大声で呼びかけてきました。
「おーい、そっちへタマ行ったぞー。」
どうやら、誰かの打球が大フライとなってこっちへ飛んで来るようです。
廊下を囲っている波板はプラスチック製なので、ボールが屋根を突き抜けてしまうことも時々ありました。
で、とっさに逃げようと思ったのですが、波板は半透明なので光は通すものの外の様子は殆どわからず、どこにボールが飛んでくるのか判らない。外へ出ようにも、あと2~3秒くらいしか時間がない。
結局、その場から動かずに、ボールが落ちてくるのを待つことにしました。
ソフトボールだから屋根でバウンドするかもしれないし、当たってもそんなに痛くないだろう。そう考えていました。
外からは「当たる当たる!」などと叫ぶ数人の声が聞こえてきます。
バンッ!
大きな音がして、目の前を黒い影が横切りました。
スピードが速すぎて、殆ど何も見えませんでしたが、ボールが天井を突き破ったのだなと思いました。
それにしては音が大きすぎるように思いましたが、その時は特に何とも思わずに足下に視線を落としました。
見ると、足先から30㎝くらい離れたところに、拳二つ分くらいの大きな石がコンクリートの床を割って半分くらいめり込んでいます。
とっさに何が起きたのか判らず、白っぽいその石と割れた床をボーっと見ていました。
「おーい、当たらんかったかぁ」
その時、ソフトボールをしていた子供が渡り廊下に飛び込んできました。
「何してるんや?」
私が今しがた見たままの事を伝えると、その子は怪訝な表情になりました。
彼によると、フライのボールが渡り廊下の屋根を突き破ったのを見て、中に私がいるのが判っていたので、当たっていたらマズイと思い慌てて飛び込んできた、ということでした。
石の事を聞くと、そんなものは見ていない、と言いました。
外に出て他の子供に聞いたのですが、彼の見たことと大体同じでした。
数人で石の所へ戻ってみると、石は相変わらず床にめり込んだままでした。
取り上げてみると、特に変わったところのない白っぽい普通の石で、熱くも冷たくもありませんでした。渡り廊下の天井には、他に穴は空いていませんでした。
その後、皆でソフトボールを探しましたが結局見つかりませんでした。
どう考えてもボールが石に変わったとしか思えませんでしたが、要するにそれだけのことで、誰かが不幸に見舞われたりすることも、妙な後日談もなかったので、それっきり忘れていました。
ほんのりと怖い話8