ハンミョウていう昆虫知ってるかな?
玉虫みたいに体がカラフルで光沢のあるやつ。
俺は小学生の頃昆虫採集にはまってて、ずっとハンミョウを追い求めてた。
ある日、クラスのマサオって同じ趣味の奴がいて、ハンミョウを見かけたっていうんだ。
場所はうちの近所からチャリで三十分ほど行った場所。
開発中のニュータウンの外れにある雑木林だった。
その週の日曜は早起きして、マサオとニュータウンに出かけた。
棟を連ねた団地の先は、一車線の細い道路が小高い山へと続いている。
その山の入り口付近だとマサオは案内したが、はっきり言ってどこにハンミョウがいるかなんて分からない。
バッタなら草むら、カブトムシだったらクヌギの木。どこにいるんだ?
見当もつかないまま、目を凝らして辺りをうかがっていると、奇跡が起きた。
目と鼻の先、アスファルトの路面にハンミョウが飛んできた。
飛ぶというより、舞い降りてくる感じだった。
離れた場所からも、その極彩色の体が分かった。
焦って駆け寄ると、まるでこちらの動きを見透かした様に、ふわりと舞い上がる。
妖しく誘われるまま、俺は山の中に入っていった。
息を殺して何度目かの捕獲を試みたとき、そいつは気まぐれに、藪の中に入っていった。
見失うまいと追いかけて、着地したあたりを進んでいくと、バッタに紛れて姿を現す。
伸ばした手をするりと抜けるように、ハンミョウは林の奥へと。
そして、ぱったりと姿を消したその場所に、なぜか男物の革靴が一足。
ドキッとして頭を上げると、ボロギレのようになったズボンと靴下が草の陰に見えた。
なぜそんなものがあるのだろう。
背筋がぞくぞくした。
気がつくと一人山の中に入って、あたりには誰もいない。
突然我に返って、俺は必死に草薮の中を走り抜けた。
得体の知れない恐怖を背中に感じながら、俺は道路に這い上がり、なんとか山の入り口までたどりついた。
そこにマサオがいて、不安げな表情で駆け寄ってきた。
「どこに行ってたんだよ」
マサオは俺から少し離れた場所で、ハンミョウを探していたそうだ。
少し気になって振り返ると、俺の姿を見かけたらしい。
「あれ、誰なんだ?」
俺はマサオに訊かれて、何のことだか分からなかった。
「頭から血を流してたおじさん・・・」
俺はそのおじさんの後をついて、山に入って行ったそうだ。
ほんのりと怖い話13