40過ぎくらいのおっさん

リクルートスーツを見る季節になると毎年思い出す話。

今から10年以上前、俺は就職活動してた。
正確な年は言えないんだけど、バブル崩壊後の冷や水ぶっかけられた氷河期世代あたりだと思ってくれ。
俺は理系で一応研究職希望だったけど求人自体がほとんどなくて、滑り止めに受けた営業や販売すら落ちまくりだった。

そんな中で一つだけ最終面接まで進んだ会社があった。
ノルマなしの営業でしかも待遇がめちゃくちゃいいところだった。
OBも「お前が来たいなら採用出してもらう」と協力的。
そのOBから最終面接の前の日に「お前は合格確実、ていうか合格決定だから。
一応面接だけ受けて貰ってから入社承諾書に判子持って来い」と連絡もらった。

最初は滑り止めって思ってたけど他は全然受かんないし、こんなに熱心に誘われたらどんどん気持ち傾いて、本当に承諾書出されたら判子捺して入社しようかなと思ってた。

最終面接の日、控え室で待機してると40過ぎくらいのおっさんが入ってきた。
最初会社の人かな?と思ったら受験者みたいな素振りで俺の隣に座った。
そしていきなり場を弁えずに大声で俺に話しかけてきた。
面接は待機から見られてるなんて常識だからびびって最初は諌めたり無視したりした。

でもおっさんは何も気にしないで
「この会社、きれいなのは見えてるところだけだぞ!」
「トイレとかすげー汚かった!この会社もうダメだな!」
「あと○○(会社の商品)もだめだ。もうここは先無いぞ!」
周りもちらちら見るだけで助けてくれない。

俺がいや…あの…とかろく返事もできないでいると大声は外まで聞こえていたらしく、すげー怒った顔で会社の人が入ってきて「(向かいの)社長室まで聞こえてたぞ!ふざけるな!出て行け!」と2人で追い出された。

俺、しばらくポカーンとしちゃって、その後で当たり前だけど急速に怒りが湧いてきた。
おっさんに「どうしてくれるんだよ」って掴みかかったけどおっさん平然としてんの。
うまく言えないんだけど馬鹿にしてるとか基地害とかじゃなくて普通に平然とした顔で「大丈夫だよ~。君は大丈夫、大丈夫~」と言って頷いてた。

俺も何か怒りがすっと引いて「よく考えたら別にそんな入りたい所じゃなかったな」って冷静になった。
おっさんの胸元掴んでしわしわになってたんで「すんませんでした」と謝ったらおっさんはまた普通の顔で「大丈夫だよ~」と言って去っていった。

OBからは連絡なかったけど、本命じゃなかったのに流されそうになってしまったその会社の熱意?というか強引な口説き方が遅まきながらこわくなったから、俺からも連絡しなかった。
それから2ヶ月後、ちょっとだけ条件を譲歩したら元々の希望だった研究職の内定もらえた。
俺はおっさんに感謝した。

でも本当に驚いたのはそれから3年後だった。
昼休みに食堂で見たニュース、俺とおっさんが追い出された会社が謝罪会見やってた。
詳しくは書けんが会社ぐるみで犯罪やって社長以下、幹部はほとんど逮捕。
平社員もノルマの名の元に犯罪行為させられててかなりの人が客から訴えられたそうだ。

いっしょに飯食ってた同僚に「もしかしたら自分はここではなくこの会社に入るかもしれなかった。
いやおっさんが邪魔してくれなかったら確実に入ったと思う」と話したら「もしかしてそのおっさんって幸福の妖精じゃねーの?」と言われた。

小太りでださくてしかもはげてるおっさんの妖精かwww
でも本当に感謝してる。いつか会ったら礼を言いたいけどあれ以来会ってない。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 44

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