ライサマ

20年近く前に、実家のご近所のS次さんというおじいちゃんが聞かせてくれた話です。
本当は全部S次さんの語り口調そのままに書きたかったんだけど(酔うと、すごくおもしろい話を語ってくれる名物じいちゃんだった)「日本語でおk」になりそうなのでw、普通に書きます。

S次さんがまだ尋常小学校の頃、真夏に仲のよかった遊び仲間と2人で山登りに出かけた。
うちの地元には由緒正しい大きい神社とかも建っている観光地化した山もあるけれど、遊びに出かけたのはそこに連なる山々を越えていくための峠のひとつ。
標高もそれほど高くないから、今で言えば日帰りハイキングくらいのコースだ。
目的の峠には昼前には着いて、そこでのーんびりと握り飯のお弁当を食べたという。

その帰り道のこと。
快晴の空の下、どこからか微かに、どーんどーんどーん……と和太鼓の鳴る音が聞こえる。
2人は山道を下りながら、どこから聞こえるんだろ? と耳を澄ませていた。

最初は山仕事のための合図かなにかとも思ったけれど、どーん、どーん、どんどこどんどこ……と、どうやらちゃんと調子のある祭り太鼓のよう。
道を進むにしたがって太鼓の音はさらにはっきり聞こえるようになり、ある分岐路のところまできてみると、帰路とは別の、寂れた山道を進んだ先から聞こえてくるのがわかった。

時間には余裕がたっぷりあるし、なんかのお祭りかもしれない、せっかくだちょっと確かめていこうぜ。
そういうことになって、2人は音のする方へ細い山道を登り始めた。
道は、どうもかなり先の尾根の頂に向かっているらしい。

だんだん狭く険しくなっていく道を、最後は薮漕ぎのようになりながら進んでいく。
太鼓の音の出どころはもうすぐそこ、というところまで来て、やっとあたりの木々がまばらになって視界が開けた。

見ると広い尾根の頂に、白い祭り装束で一心不乱に胴長太鼓を叩いている人がひとり。
予想外なことに、若い女の人である。

なんだろう、祭りの練習か、それとも雨乞いのご祈祷かなにか?
S次少年がそのまま歩を進めようとすると、友人が服の裾を強く引いてそれを制した。
なんだよと思いつつ引っ張られるままに木立の陰に身を潜めると、友人がこれ以上ないほど嬉しそうな顔でさかんに胸の前で両手を丸く動かし、

「めぇるwwwめぇるwww(見える見える)」

と声を殺して囁いた。
「は?」と声を出しそうになるS次少年に【静かに!】の手振りの後、女の人を指差す。

女の人は背中に黒く紋を染め抜いた薄手の法被のような着物を着ているが、太鼓を打つ動きのせいか着崩れて、帯でかろじてはだけるのが抑えられている程度。
下はと見れば、どうやら褌のようなものをつけているだけ。
一言でいえば、半裸だ。

むはーーーwww( ゚∀゚)

2人して湧き上がる嬌声を必死に押しとどめ、ふひひwww、むひひひwwwと、互いにパンチ、エルボー、ボディブローの応酬で興奮をいなしあう。阿呆だ。
2人の位置から女の人は十数メートルあまり先、ほぼ真横から眺めていたのだが、

どんたったどんたったどんたった……

先ほどまでより激しくなった太鼓の打ち様に合わせて、豊満な胸元がいまにもこぼれ出そうに揺れている。
農民ばかりの地元の村では見たことがないような白い肌が艶かしい。

しばし堪能(*´д`*)

もっと近くで見てえ!と友人を見るに思いは同じ、再び身振り手振りで
【おっぱい】【見る】【そーっと】【後ろ】【移動】【あっち】【おっぱい】【近い】
と伝えてくる。
確かに反対側の木立のほうがここよりずっと近くに寄れそうだ。

太鼓の音が響く中、小声なら話しても聞こえないんじゃとも思ったが、
【おっぱい】【押忍!】
と応えて移動を開始した。友人が先をゆく。
木立の間を少しずつ、気取られないように身をかがめて。

女の人を中心に半円を描くように移動し、ほぼ後方というところに廻り込んだところで、斜面が激しくなり足場がなくなった。向こうの木立までショートカットするなら、一旦、木々の間から抜けて身を表にさらさなくてはならない。

もう女の人までの距離は7、8メートルくらいだ。
長めの髪を後ろに巻いてまとめ、金属の串を数本刺して留めていることまでわかる。
巴紋を染め抜いた薄手の法被は、汗で素肌に張り付いていた。

どんどどんどどんどどんど……

ますます激しくなる乱れ打ち、これなら真後ろを通っても気づかれないと踏んだか、友人が木立からたたっと進み出たその瞬間。

ぴたりと止む太鼓の音。女の人がこちらをキッと振り返り、

「餓鬼が」

の一声が頭の中に低く響いた。直後、

どおおおおおおおおおおぉぉぉぉんんん

大音響と凄まじい衝撃。
目の前が真っ白になり、S次少年の意識は途切れた。

「ライサマ(雷)が落っこっだのよ」

どのくらい経ったのか、S次さんは土砂降りの雷雨の中で目を覚ますと、激しい胸の痛みに耐えながら、痙攣する足を引きずって友人に駆け寄った。
おそらく雷の直撃を受けたのであろう友人は、すでにこと切れていたという。

山道の分岐まで自力で戻ったところで山仕事の人たちに助けてもらったS次さんだが、雨に打たれ続けたせいもあってか、肺炎で一時はかなり危なかったそうだ。

「てえご(太鼓)さただぐ女がいだっつても、だーれも信じてくんねよ。まず、おめさだけでも助がってよがった、女? おめも脳でもやられだが?とがしかみんな言わねもんよ」

戦前、昭和の初めの頃の話だそうです。

山にまつわる怖い話56

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