知り合いの話。
幼少時に手伝いで、薪拾いに山に入っていた時のこと。
好奇心旺盛だった彼女に、お祖父さんが言って聞かせたことがある。
「紐とか蔓とか、細くて長い物は拾わないようにな。そいつがクビレオニの物だったら、首括っちまうから」
クビレオニとは縊れ鬼と書くそうで、首を吊って鬼になった亡者のことを言う。
鬼は山に入った者誰彼構わず、それに首を吊らせるよう仕向ける。
その者の前に紐や綱を転がしておいて、うっかり手に取った者がいれば、死にたくなるような暗い言葉を囁き続けるのだと。
誰かが首を吊れば、代わりにその自殺者が新しい鬼となるとも言われていた。
「自分でおっ死んだ輩は、成仏できないって聞くからな。楽になりたいもんだから、行きずりの者でも取り殺そうとするんだろう」
自殺が多い場所っていうのは、やっぱり鬼がいるのかもしれないよ。
彼女は声を潜めてそう言った。
山にまつわる怖い話26