私の体験した話。
学生時代、地元のキャンプに参加していた時のこと。
そこは藪蚊が多く、キャンパーは皆例外なくあちらこちらを刺されていた。
私も例外ではなかったが、刺された中で一カ所、腫れ方の違う跡がある。
普通に比べて倍以上も腫れ上がり、まるで青痣みたいだ。異常に痒い。
堪らず、年長の知り合いに薬を貰いに行った。
先生という綽名で呼ばれるその人は、私の虫刺されを見てこう言った。
「ははぁ珍しい。嫌われ虫に刺されたね。近頃見なかったけど、まだ居たんだな」
何でもこの虫に刺されると、他の虫類から刺され難くなるのだという。
虫に嫌われるから“嫌われ虫”と呼ばれるそうだ。
以来、確かに私は、蚊などの虫にほとんど刺されることがなくなった。
虫除けスプレーを借りなくても、明らかに他人と刺され方が違う。
人が蚊に集られて手足を掻き毟っているというのに、私は全然刺されないか、精々一、二カ所を食われる程度である。
近頃は流石に、刺される頻度が少しずつ増えて(戻って?)きたようだ。
もう一回くらい嫌われ虫に出会しても良いかなぁ、などと考えてしまう今日この頃である。
山にまつわる怖い話28