S君

小学生の頃、けっこう手酷くいじめられてた。
その頃のことはあまり思い出したくないんだけど、ちょっと気になることがひとつ。

いじめられてた当時、それでも仲良くしてくれてた友達がいたんだ。S君。
S君と遊びにいった場所は今でも覚えてる。学校の裏の山とか、近所にあった底なし沼とか。
学年も変わり、やっとクラスの人とも少しは打ち解けられるようになる頃だったか、親の仕事の都合の引っ越しがあり、その小学校を転校し中学にあがると同時に元の住所近くに戻った。

中学生になったらS君と会える、とちょっと楽しみにしてた。
でも、いざ中学に通うようになってみたらS君はいない。
彼も転校したのか、と思い同じ小学校出身の人に聞いてみた。
…ところが、返ってくる返事が驚くようなものばかりだった。

誰ひとり、S君の存在を覚えてなかったんだ。

いじめられてた自分よりも、よっぽど同級生とも打ち解けていたのに。
友達だって自分よりも多かった。それなのに、S君のことを覚えている人が誰もいない。
卒業アルバムも見せてもらったんだが、なんでだかS君はその中にはいないし、転校したのか、とも思ったんだけど、それでもひとりくらいは覚えていそうだし…

そこまで考えて、ふと思った。
最初からS君なんていなかったんじゃないか?
いじめられた自分が、淋しくて想像で造り出した架空の人間だったんじゃないか?
…それじゃ、あの時自分はひとりで虚空に向かってしゃべって笑ってたのかな。
いや、でも一年間同じクラスだったんだよ、S君の顔は今でも覚えてる。

中学を卒業してからもう何年も過ぎたんだけど、いまだにS君の所在は不明。
自分の妄想上の友達だったのか、実在した同級生だったのかどうかも不明。
いずれにせよ、あの頃一緒にいてくれてありがとう、と伝えたい。

ほんのりと怖い話25

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