知り合いの話。
朝方に彼が里道を歩いていると、向こう側から顔見知りがこちらに進んできた。
ただ不思議なことに、それが誰だったのかどうしても思い出せない。
そいつが「おーい」と声を出したので、彼も「どうしたー?」と言葉を返す。
次の瞬間、辺りがいきなり真っ暗になった。
呆然と見上げると、大きな月が世界を照らしている。
彼は真夜中の暗い道の上、一人きりで突っ立っていた。
ひどく驚いたがどうしようもなく、そのまま家に帰ることにした。
帰宅した彼は、再び仰天することになる。
家の者が言うには、彼は五日前から行方不明になっており、村中で手分けして捜索していた真っ最中だったからだ。
とりあえず無事に帰ってきたということで、村では一件落着したのだが、家族はしばらく何か恐れているような眼で彼を見ていたという。
山にまつわる怖い話29