友人の話。
彼は神社の氏子になっており、毎年年の瀬から新年に掛けて、社の世話をしている。
代替わりして新しく氏子に加わった後輩があり、二人で組んで準備に掛かった。
忙しく動いていると、この後輩が奇妙なことを言う。
「へえ、ちゃんと管弦の音楽なんか流すんですね。雰囲気出てるなぁ。本格的だなぁ」
頻りにそう感心しているのだが、彼の耳には何も楽らしき調べは聞こえない。
「え、音量小さいけど聞こえるでしょ? 拝殿の隣の舞台から。あそこにスピーカーとか仕込んでるんじゃないんですか?」
そのような仕掛けなど記憶にない。
後で確認してみたが、管弦楽が聞こえている者は他にいなかった。
後輩は驚いて目を剥いていたが、その後それを口にすることはなくなった。
「あいつ、別に信仰深い訳じゃないんだけどなぁ。何であいつにだけ聞こえるんだろ?」
今年も、彼は後輩と二人組んで、年始の世話をしているそうだ。
山にまつわる怖い話36