それを体験したサラリーマンが、ある日酒を飲んで千鳥足で帰る途中だっただ。
夜も12時を回っていたという。家の近所の、街灯もないさびしい山道を通っていたときだった。
突如、視界の端にギラリと何かが光り、サラリーマンは目がくらんで立ち尽くした。
車か? と顔を上げた瞬間、あたりがボゥ……と白い光に包まれ、そのサラリーマンは全身が凍りついた。
十メートルほど向こうの山の斜面を、何か光り輝く人型のものがものすごい勢いで駆け下りて行く。
見たところ「それ」は身長が3メートルほどもあり、足だけが異様に長く、腕らしきものはなかった。
頭はただの丸で凹凸など何一つなく、足も体もすべて直線で構成されているかのように丸みがなかった。
まるで青白く光り輝く、巨大なコンパスのように見えたという。
「それ」はそのコンパスのような足で山の斜面を二、三歩で駆け下りると、そのサラリーマンの家の隣家の庭に駆け下り、再び斜面を登って山道を横切り、林の中に消えていった。
しかし、すぐに「それ」は戻ってきて、同じように大またで斜面を下ると、隣家の庭に駆け下りてきた。
まるで機械仕掛けのように規律ある動きで、「それ」は山と隣家の往復を続けていた。
なんだあれは? サラリーマンはいまさらながらに恐ろしくなった。
酔いなどいっぺんに吹き飛んでしまった。かといって、この山道を通らない限り家には帰れない。
できれば近寄りたくはなかったが、サラリーマンは意を決して下を向き、「それ」の傍を走りすぎた。
必死で逃げる途中に後ろをちらと見ると、「それ」は同じように隣家の庭に駆け下り、今度はその家の周りをぐるぐると回り始めた。
その家の庭に繋がれている犬がけたたましい声で吼えているのに、家の人間は起きてくる気配がない。
見ないほうがいい、見ないほうがいいと念じながら、サラリーマンは必死に走った。
背後からは犬がけたたましく吼える声がずっと聞こえていたという。
後日、このことを会社の同僚に話すと、「そりゃ宇宙人だろ」と一笑に付された。
しかしそのサラリーマンは、「あれ」は件の隣家に因縁にまつわるものだという確信がなぜだかあったのだという。
それが証拠に、このサラリーマンがその異形に遭ってから数日後、隣家は原因不明の失火で全焼してしまった。
山怖のまとめサイトで似たようなものを見かけた気がするので書いてみた。
山にまつわる怖い話48