爺様と小熊

爺様に聞いた話2

爺様がまだ20代だった頃、猟を始めて3~4年目の事。

2月が過ぎてからまもなく1頭の熊を仕留めた。
近づいてみると、回りに子熊がちょろちょろしている。
普通、冬期の冬篭り期間に出産・授乳し、春先に出てくるので、この子熊はまだ授乳期間中だろう。

爺様は、見捨てるべきか助けるべきかしばらく悩んだ。
放っとけば2~3日中に間違いなく死ぬだろう。
結局、親を殺した負い目があるので家に連れて帰ることにした。

親父にえらく怒られたらしいが、今年だけということで了解をとり、家で山羊を飼っていたんで、その乳を与えて育てた。
近所に知られると、嫌がられるので「こっそりと」だったみたいだが。
なかなか利口な奴だったみたいで、そこいらの猟犬の子より賢かったとの事だ。

爺様が子熊のことを「奴」とか「野郎」とかしか呼ばないんで、「名前は付けなかったのか」と聞いたら、「付けたけど忘れた」だって。

春まで家で面倒をみて、夏から裏にある家の山の木の穴に住まわせ定期的に食い物を持って行ってた。
爺様が来ると喜んで体当たりしてきてたが、爺様が転んだらやらなくなったらしい。
その年はそこで冬篭りをさせ、次の年の春、猟でも入らないような奥山に連れていって放した。
なかなか離れなかったらしいが、怒鳴ったら逃げてったとの事。

それから4年目の夏、お婆さんと一緒に山芋採りに近くの山に入った村の女の子が行方不明になった。
村の連中で捜索隊が組まれ、爺様も参加したが一向に見つからない。
1週間が過ぎてもう駄目だろうという声が出始めた頃、2つ先の山の中で発見された。

皆が、1週間も良く無事でと思い話を聞いてみると不思議な話を言い始めた。
朝、目が覚めると近くに木イチゴ、アケビ、山芋が一杯おいてあるので食べたと言う。
村の連中は、天狗のおかげだとか山の神様のおかげだとか色々なことを言って感謝しているが、爺様は「あの野郎だ」とピンときた。
木イチゴもアケビも山芋も、あの子熊の大好物だ。
裏山にいた時、爺様の所にも持って来たことがあって、褒めた事があったらしい。

そこで爺様は次の日、発見した山に出かけて、「こんな近くに来たら危ねえじゃねえか!とっとと遠くに行け!」と怒鳴り回って来た。
その晩、爺はでっかい熊に体当たりをくらわされて、崖から落ちる夢を見たらしい。

まあ、気持ちは判るが熊が気の毒になった話だった。

一般常識として、熊は冬眠するものと考えてると思うが、実際は真冬にうろつく奴も結構いるらしいんで注意してくれ。

山にまつわる怖い話51

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コメント

  1. 匿名 より:

    食べ物が少ない年は省エネのために冬眠するけど、食べ物が多いとなかなか冬眠しないって話はちょうどニュースで見た