数年前、上京して1人暮らしをしていた時の話。
そのアパートの大家は60代後半のおじいさんでアパートの隣に家に住んでおり、家賃の支払いは直にその家に行って払っていた。
当時自分は残業やら休日出勤やらで帰りも夜遅く、たまに夜帰ってくると家から顔を出して「今帰ったの?随分遅いねぇ」と声をかけてくれたりした。
(自転車通勤だったのでしまう時の音で分かるらしい)
ある日、家賃の支払いに大家の家に行くと大家の奥さんが出てきた。
「ウチの主人、体調崩してしばらく入院する事になったから当分私が大家をやるんで何かあったら言って下さいね」と言われた。
それから2ヶ月程経ち、残業終えてアパートに戻ると、大家の家の玄関の前に誰か立っている。
よく見たら大家のおじいさんだった。
入院していたせいか元から痩せていた体が更に細くなりフラフラしたカンジで立っていて、ちょっとビックリしたものの「こんばんはお久しぶりです!」と挨拶すると「こんばんは。相変わらず仕事遅いんだねぇ」とにっこり笑って軽く会釈をしてくれた。
「いつ退院したんですか?」と聞いたものの何も答えずに笑っているので「じゃあおやすみなさい」と言って自分の部屋に入った。
2週間後、家賃を払いに大家の家に行くと奥さんが「お線香上げてくれる?」と言うので「どうしたんですか?」と聞くと「あら?ウチの主人が亡くなった事まだ話してなかったかしら?」と言う。
驚いて「え?こないだ退院したのに?もしかして一時帰宅とかだったんですか?」と聞くと「主人は2ヶ月前に入院してから1度もうちに帰ってきてないけど…」とすごく不思議そうな顔をされてしまった。
何でも「退院まであと2日」という日の夜中に突然容態が悪化して、そのままお亡くなりになってしまったらしい。
それが2週間前の話だそうで。
「よっぽど家に帰りたかったのかしら?だったら私に何か言ってくれればいいのに…それともアナタが毎日残業で帰って来るのが遅いって心配してたから会いに来てくれたのかしらね?」と奥さんが笑いながら言っていたのが忘れられない。
ちゃんとお線香上げてお祈りしました。
間違ってあげてしまってすみません。
ほんのりと怖い話40