虫の知らせ

怖くはないけど実際に体験した不思議な話。

大学二年の夏の日。
実家に帰省していた俺は祖母に頼まれてお盆で使う物を買いに行っていた。
隣町のホームセンターに車で向かう途中、信号待ちをしていると小学校中学校のときの同級生Aくんを見た。
横断歩道を渡っているAくんに声をかけるも気付いてないのか返事はなかった。
そんなに仲良くなかったし仕方ないかって思いながら俺は目的地に向かった。

その日の夜、地元の友人達と集まって遊んでいるときに「Aを見たよ」となんとなく話してみると、「俺も見た!」「俺も俺も!」と何人もがその日にAを見ていた。みんな中学卒業以来に見て印象に残っていたらしい。

ある奴は「車ですれ違った。Aの家に止まってるバンだから間違いない」
もう一人は「ローソンの駐車場でタバコ吸ってた」と、皆それぞれ別の場所でAを見ていた。
おもしろくなった俺たちはAと遊ぼうということになり、Aと一番仲のよかったBに連絡を取った。
Bに説明して、Aと遊びたいから呼んで来てくれと言うと、Bは言葉を濁してはっきりしない返答をした。

わけを聞いてみるとAとは最近連絡が取れなくて何をしているかわからない。
Aの実家に行って親に聞いてみても、「最近は仕事が忙しくてあまり家に帰ってない」ということらしかった。
仕事が忙しいなら仕方ないからその日は解散した。
翌日、Aが死んだという連絡がきた。

自殺だった。
俺と友人たちは信じられなかった。
昨日見かけたAが死ぬなんて。
お通夜に行くと同級生や先輩後輩、結構な人数が来ていた。
お盆だけあって地元を離れていた奴らも帰省していたからだった。
斎場の駐車場で同級生が集まって皆信じられないといった話をしていた。

俺たちはAが死ぬ前日に偶然見かけた話をした。
すると、俺も私もと次々声があがった。
ほとんどの奴らがAを目撃していた。

「俺は墓場に行く途中にあいつのバンとすれ違ってクラクション鳴らしたけど無視された」
「私は駅前の定食屋から出てきたときに偶然鉢合せして、声かけたんだけど無視されたから人違いだったのかなって」

Aは車内で硫化水素自殺を図っていた。
葬式で見た棺桶の中のAの遺体は凄まじい色をしていた。
葬式に参列した中にもAを目撃していた人がたくさんいた。
同級生のお母さんは「私がパートしてるドラッグストアで洗剤買っていって。それで死んじゃうなんて」と号泣した。
先輩の消防隊員は「俺が一番に駆けつけたんだ。もっと早く行けたら救えたのに」と号泣した。

虫の知らせだったのか、Aと縁のある人はAの死の直前に目撃していた。
自殺の原因は仕事場での人間関係だった。
あんなにAのことを見た人間がいるのに誰も、少しの会話もできなかった。
誰かと会話していたら自殺なんてしなかったかもしれないなと中学の担任が言った。

Aの死後、地元の同級生たちは以前よりも連絡を取るようになった。
悩み事なんかを相談するために。
今年のお盆も皆でAの墓参りをすることになっている。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 70

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