もう30年程前のことだが・・・
突然、祖母が「祖父がボケたかもしれない」と言ってきた。
祖父が「表に○○(故人)が来たから開けてやれ」と、連夜言うようになったということだった。
本家の大叔母が日頃から信心していた拝み屋さん(霊能者)に相談しに行くと、次のように言われた。
・まず、祖父はボケたのではない。
・祖父母宅の近くに忘れられた地蔵がある。
・地蔵は草もつれになっていて、見えなくなっている。
・地蔵が○○さんを通じて祖父にその存在に気づいてほしいと訴えている。
・その地蔵を見つけてまわりを掃除し、七色のお菓子を供えたらよい。
地蔵の場所についての説明もあったらしく、大叔母は「すぐに誰かに行ってもらえ」と祖母に言ってきた。
祖母は祖父がボケたのではないと信じたかっただろうし、親族には長命でも認知症になった人があまりいなかったのもあり、誰か地蔵を探してほしいと頼んできた。
祖父母は当時既に相当な年寄りで、夫婦だけで住んでいたため、母や伯母はもっと現実的な介護のことなどを考えていてそれどころではなかったが、あまりにも祖母が必死に言うもんで、とりあえず伯母が見に行くことになった。
伯母の話では、祖父は昼間はいつもと変わらない様子で、夜、○○さんが訪ねてきたと言っていることは覚えていなかった。
祖父の言い分では、祖母の方こそボケたのでは・・・と心配する始末。
とにかく、地蔵のことをはっきりさせて祖母を納得させてから、2人とも病院に連れて行こうと、拝み屋さんに言われた通りの場所に行った。
かなり細かくどこそこの道をどっちの方向に行けばよいかを示してくれてはいたが、そんな地蔵は見つからない。
祖父母と大叔母にそう伝え、病院に行くことや長女である伯母の家に引き取ることなど具体的な話をした。
しかし、拝み屋さんを全面的に信頼している大叔母は引き下がらず、再度、相談に行ったところ、「地蔵は絶対にある。草もつれになっていて見えなくなっているのだから、道から覗いていたのでは見つからない」と言われ、伯母は渋々もう一度見に行くことにした。
そこは何軒かの商店が並んでいる通りなのだが、商店主らも地蔵のことは知らないようだった。
伯母は諦めて、というか「やっぱり」と思いながら帰りかけたときに、商店と商店の間の狭いスペースが草茫々に生い茂っているのに気づいた。
草をかきわけて入ってみると、確かに小さな地蔵が草に覆われてそこにあった。
一緒に覗いていた商店のおばさんも後ろから「あっ!」と声をあげた。
まわりの商店のおじさんやおばさんがそれぞれ鎌やゴミ袋を持って集まってくれて、伯母は急いで七色のお菓子を買いに走った。
きれいになった地蔵に、色をつけた砂糖が塗られたクッキーのようなお菓子を供えて丁寧に拝んできたところ、その晩から○○さんが訪ねてくることはなくなり、祖父も祖母も頭はしっかりしたまま80代後半まで生きた。
件の拝み屋さんも今は既に鬼籍に入っているが、大叔母や母たちは未だにその時のことを話題にする。
その拝み屋さんには他にも何かと世話になったらしいが、まだ若かった伯母や母は地蔵の一件までは半信半疑だった。
目が不自由で肉眼ではほとんど何も見えない方だったそうだが、心眼が冴えているのだろうと、信じるようになったようだ。
ほんのりと怖い話59