小四の時、新興住宅地へ越した。
近所に二つ上のお姉さんがいて、すぐに仲良くなった。
小さい住宅地で子供が少なかったせいもあるんだろう。
近い世代は俺とそのお姉さんしか居なかった。
小学生の頃は一緒に遊んでもらったし、お姉さんが中学へ上がっても外で行き合えば挨拶をしてくれた。
高校になり俺は塾通いをし始めた。
終わると俺はよく住宅地の裏手にある高台の公園で休んでた。パンを食ったりジュースも飲んで、ゲームをしたり。
要するに息抜き。
高一の九月、夏休みが明けてしばらく経ったある日、いつものように夜、その公園へ寄った。
見晴らしがいいから、何の気無しに住宅地の方角を眺めていたら、例のお姉さんらしき人の姿が見えた。
家の二階に居て、表が暗いから屋内の明かりで、窓ガラスの向こうに立っているのがよく見える。
ただ、その姿が普通じゃない。遠くからだが、どうもペンキか返り血を浴びたように真っ赤なんだ。
赤い血(か塗料?)は、お姉さんの学校の制服の上にかかっていた。しかもその家、お姉さんちじゃなかったんだよね。
窓の中にお姉さんが見えたのは、独身の会社員(確か三十代か四十代・・・・ もっと若かったのかも知れないが、俺も高校生だし、見た目で判断出来なかった)の家。
で、その会社員かまでは見えないが、明らかに男性かと思える人影が、お姉さんの足元に倒れてたんだ。
その男性も、Yシャツを血だらけにし倒れている。
そして、これは錯覚か思い込みかも知れないが、お姉さんの手には刃物が握られていた。
思考が一瞬停止する。
変な言い方になるけど、リアクションに困った。
一体何だあれは。芝居かパーティーでもやってんのか。きっとそうだ。
でもお姉さんの表情が険しいんだ。見た事が無いくらい。
ここまで時間にして三十秒も無かったと思う。それ以上は見なかった。
変な話、お姉さんと目が合ったらマズイ。叱られる。俺のほうが勝手に覗いて、悪戯してる気になって、逃げたから。
自宅へ帰っても親に相談は出来なかった。
どう考えても現実的じゃない出来事だし。
次の日になって、近所で何も起きなかった。警察が来るような事もなく、大人達の様子もおかしくない。
何日か後にはお姉さんとも表でバッタリ会い、おはよ○○君と、普通にいつも通り挨拶して貰えた。
俺も塾通いで忙しく、すぐに普段の日常へ埋没していった。
それから三年後、大学へ進み、夏に帰省してきた時、フと夏という事もあり思い出し、親へ、そう言えばあの独身会社員の人は、と聞いた。
俺が高一だった一月ごろに、心筋梗塞で亡くなったという話だった。自室で亡くなっていたらしい。
一月? 心筋梗塞? 血まみれになったりしてた?と聞くと、いや心筋だから全然そういう風じゃなかったらしいよ、と。
親は特に何かを隠している様子は無い。
近所でそれとなく、あの人こうだったんですねと聞いても、同様だった。
どうもおかしい。少なくとも俺が何か見たのは本当らしいのだが。
不可解な体験、謎な話~enigma~ 92