その昔、某ハウスメーカーの基礎工事をしていたオレは、若い衆を一人連れて、着工中のアパートの床下施工に赴いた。
ひとつ現場を片付けてからだったから、その現場に着いたのは昼過ぎ位だった。
外は土砂降りの雨が降っていた。
基礎工事そのものは外仕事だが、床下のそれは建て方が外壁を組み、屋根を張ってからの施工なので、雨でも関係なかった。
「取り敢えず、先に飯にしよう」
昼だし、飯を食ってから仕事に取り掛かろうと、二人で飯を食い始めた。
暫くして「がぼっ、がぼっ、がぼっ」
雨の中をゴム長靴で歩く足音が聞こえる。
建物の周りを、行ったり来たりしている。
監督か大工か足場屋でも、現場の下見に来たのだろうとタカをくくっていたが、相変わらず「がぼっがぼっ」っと建物の周りを行ったり来たりしている。
オレは若い衆と二人で顔を見合わせ、示し合わせた様にドアを開け外に出た。
土砂降りの雨だし
「中で雨宿りしろ」
と、外を歩いている人間に声を掛けるつもりだった。
然し、建物の外はザーザー降る土砂降りの雨の音。
そんな人の気配も何もなく、さっき迄していたゴム長靴の足音もしない。
建物の周りも歩いて確認したが、誰もいない。
雨が酷いから、車の中ででも休んでいるのだろうと、現場の周りを見渡したがそんな車すらもない。
「何だろう、帰ったのかな」
不思議と、その出来事に怖さや不可思議さはなかった。
現場では、様々な業者の出入りが日々多いものだし、何より足音は生きた人間ソノモノで、その時は霊とか想像もしなかった。
然し、暫くするとまた
「がぼっがぼっがぼっ」と建物の周りを歩く、ゴム長靴の足音がする。
「またですね。」
「うん、もうほっとけ」
二人でそんな会話をし、仕事に取り掛かろうとした時、外で慌ただしく、数台の車が停まる音がした。
工事部門のお偉いさんや営業、監督が血相変えてドヤドヤと車から降りてきた。
ただ不思議に思ったのは、何故かその中に正装した神主も居る。
「今更地鎮祭じゃあるまいし、何事だよ」
そんなオレ達を尻目にその建築中の建物の中で、その神主は祝詞をあげ始めた。
同行した社の人間も、皆、神妙な顔をして手を合わせている。
何が何だか分からないオレ達は、呆気にとられていたが、一部始終が終わるまで、取り敢えず仕事に取り掛かるのは止めにしていた。
そして、ひと通りが済み、社の人間とも軽い挨拶を交わし、上司の面々も神主も、帰路に就いた折、一人残った監督から、事の次第の顛末を聞くことが出来た。
その日の朝、早い時間に一人の大工が現場に来た。
ふと視線を感じたので振り返ると、小窓から一人の男がこっちを見ている。
「随分、早い業者だな」
大工は気にせず作業をしていた。
暫くして、また視線を感じたのでそちらに目をやると、先程の男が、まだこっちを見ている。
「ふざけた奴だなぁ」
そんな事を思いながら作業を続けていたが、どうも様子がおかしい。
「おい、いい加減、ふざけんなよお前」
ハッパをかけてやろうと勇んで小窓のあるドアを開けた大工は、腰を抜かした。
その男は首を吊っていた。
小窓から見えていたその顔は、男の首吊り遺体の死に顔だった。
作業服に長靴姿で、どこぞの浮浪者らしかった。
新築のアパート物件で、アヤつく事を恐れた社は急遽、神主を呼んでお祓いを済ませ、内々に事無きを装ったんだろうが、あの足音は間違いなく、首吊った浮浪者なんだと思った。
横浜の某所での出来事。
ちなみにそこは入居してますw
本当に体験した霊体験1