知り合いの話。
彼のお爺さんが、山村のバス停でバスを待っていた時のこと。
道路の向こう側を、野良犬が一匹歩いていたという。
何の気なしに見ているうち、犬は水たまりを渡り始めた。
二三歩進んだ時、いきなり前足が地面に吸い込まれた。
そのまま飛沫を上げて犬は水に没したのだという。
お爺さんが駆けよると、そこは深さが一センチもない浅い水たまりだった。
落下物があったことを示す波紋だけが、わずかに水面に残っていた。
あたりには犬の姿などどこにも見当たらない。
お爺さんは一刻も早くバスが来ることを願ったのだそうだ。
山にまつわる怖い話6