知り合いの話。
ダム建設工事で山奥に泊まりこんでいる時のこと。
ある夜、外の仮設トイレに行く途中で、不審な音が聞こえたのだという。
ビンッと何かが思い切り引っ張られるような音がして、その直後にギシギシという揺れるような音に変わった。
音は彼のすぐ側で起こったようで、小さいがはっきりと耳に聞こえた。
飯場に戻って、年配の同僚達に話してみた。
「誰かが首を吊った時の音だな」事もなげに答えられたという。
動揺する彼を見て、一人がこう聞いてきた。
「音はどこから聞こえた?」
周囲の木がほとんど伐採されていることを思い出し、彼は絶句した。
「このあたりは自殺名所だったらしい。近寄らん方がいいぞ」
「引っ張られるっていうからな」
彼は素直に助言に従うことにした。
不審音は、それからも度々聞こえたそうだ。
ダムが完成した現在、その音がいまだ聞こえているかどうかは不明である。
山にまつわる怖い話8