友人の話。
春の峠道をのんびりと車で流していた時のこと。
ちょうど桜の花も終わる頃で、道路を渡る毛虫の姿がよく見られたという。
見通しの悪いカーブを曲がった瞬間、いきなり路面の色が真っ黒に変わった。
狭い峠道は一面、びっしりと毛虫で覆われていた。
必死でブレーキを踏んだが間に合わず、毛虫の大群に乗り上げてしまう。
途端タイヤがスリップし、毛虫を轢き潰しながら車は横滑りを始めた。
谷に落ちるよりはと、強引にガードレールに接触して停止させたそうだ。
安堵の息を漏らしながら、後ろをふり返った彼は目を疑った。
道路上には何も見えず、彼の車のタイヤ後しか残っていなかった。
何かに騙されたような気がした、と彼は言っている。
山にまつわる怖い話9