友人の話。
彼の実家は山奥の旧家で、かつては辺り一円の領主だったという。
家屋も非常に広く、彼もまだ入ったことがない部屋や蔵などがあるのだそうだ。
社会人になったばかりの頃、季節は夏。
実家に帰っていた彼は釣りをしようと思い立ち、釣竿を探していた。
聞いてみると、どこかの蔵に何本もあったという。
彼は探検も兼ねて、これまで入ったことのない蔵を片っ端から開けて行った。
ある蔵に踏み入った時、彼は何かにつまずいて倒れこんでしまう。
体勢を取り直した彼の目に、あり得ない物が映った。
床一面に、大きな氷の塊がいくつも転がっていた。
彼がつまずいたのも、畳ほどもある氷であったらしい。
気がつくと吐く息が白い。
驚いて見回していると、氷はすぅっと透き通り、あっという間に消えてしまった。
すべての氷が消え去ると、どっと外気の暑さが戻ってきたという。
家人によると、件の蔵には地下があり、かつては氷室として使われていたという。
これまでにも度々そういうことがあったのだと。
「蔵が昔を懐かしんでいるのかもしれないねぇ」
そう言われたのだそうだ。
山にまつわる怖い話9